【外伝】ハロー・ワールド「ノエルとシャロンの邂逅②」

現在『カクヨム』で連載中の自作小説『ハロー・ワールド』の外伝となります。

>>『ハロー・ワールド』の本編はこちら

前回はノエルとシャロンの初対面のシーンを書きましたが、今回はその数日後の話です。

現実の世界でも様々な人種や国があって、生活様式や価値観も様々なわけですが、ファンタジー世界だと異なる”種族”を書くことができます。
種族が違うと、人種以上の”違い”が書けるので面白いです。

今回は最弱である”ヒト”が風邪を引き、風邪など引かない最強種”鬼”が看病するという構図になっています。

【外伝】ハロー・ワールド「ノエルとシャロンの邂逅②」

ノエルが鬼族の城にやってきてから数日。ノエルは熱を出して寝込んだ。

ぽつりぽつりとだがシャロンとも自然に口をきくようになってきた矢先のことだ。シャンディが言うには緊張が途切れて、これまでの疲れが出たためらしい。

(……なんて弱い生き物でしょうか)

他にやることもないからと、誰でもない自分に理由づけてシャロンはずっとノエルの様子を見ている。顔が赤いし、呼吸もすごく荒い。時折、苦しげに呻くので、その度にシャロンは心が乱される思いだった。

(——兄さんは寝かせていれば直ると言っていましたが、こんなに苦しそうなのに、ほんとうに大丈夫でしょうか……)

鬼族は風邪など引かない。だからシャロンにはノエルの苦しみはおろか、今のノエルの状態がシャンディの言っていた“大丈夫”の範疇なのかすらまったく判らなかった。

当然ながら鬼には医者も存在しないので、シャロンとしてはシャンディを頼るしかない。ノエルが苦しそうにするたび、容体を知らせに行っているが、シャンディはそんなシャロンの様子を可笑しそうにからかってくるだけで、大して心配していないようだった。

釈然としない心持ちでいると、眠っていたノエルが目覚めた。

焦点があっているか怪しい視線がしばらく天井を惑い、シャロンの存在に気付いて首を横に向けた。目が合った瞬間、ノエルが安堵の表情をわずかに浮かべるものだから、なんだかシャロンも安心した気持ちになった。

シャロンはノエルの額からずりおちた布を拾い、シャンディの用意してくれた氷水に浸すと、それを絞った。力を込めすぎると完全に水分が絞り出されるか、最悪布が破れてしまうので慎重に力を抑えた。

「大丈夫ですか、ノエル?」

自分でも驚くくらい優しい声が出た。

恥ずかしくなって、そんな感情をひた隠すように冷えた布をノエルに手渡す。直接手が触れないようには、細心の注意を払っていた。

ノエルは再び天井を見上げ、受け取った布を自らの額に乗せた。

「冷たくて気持ちいい……」

「それは良かったです」

シャロンとしては、もっと直接的に“看病なるもの”をしてやりたいと思ったのだが、それはシャンディに止められている。

(——自分は直接触れて熱を測ったりしていたのに……)

ノエルの額に手をやって容体を診ていたシャンディの姿が思い出され、心の中で少し悪態付いた。

とはいえ、シャンディの言うことももっともだとシャロン自身納得している。

シャロンは鬼族のなかでも、飛び抜けた力を持っているから、その制御に苦しんでいた。わずかでも力加減を誤って目の前の子供に触れれば、たちどころに命すら奪いかねない。

「ずっと診てて、くれたんだ?」

弱々しい声でノエルが言った。声が枯れていて辛そうだ。

「見ていただけで何もしていませんが……。水、飲みますか?」

「ううん、大丈夫。ありがとう」

「そうですか」

そこで会話が途切れた。

声を出すのも苦しそうなので、シャロンもあえて話しかけはしない。それに、出会った当初から、なぜかノエルと共有する沈黙は心地良いものでもあった。

「何もしていないって言ったけど……」

しかしノエルが自ら口を開く。

「そうやって、シャロンが側にいてくれたことが、俺は嬉しいよ」

そんなことを言って、苦しいだろうに微笑んで見せた。

それは、あまりにあからさまな笑い方だった。大人のような気遣いを、子供が必死にこなそうとしていた。きっと、シャロンが落ち込んでいたことを、この聡い子は見抜いている。

(この子は……、自分も苦しいくせに、他人を気遣って……)

そんなノエルを前に、シャロンは形容できない感情が湧いてくることに気付いた。もやもやしていて、手を伸ばしてもすり抜けてしまいそうな感情だ。なのにすごく温かくて、優しさが腹の内からじんわりと広がっていく。

「ノエル……」

その声はノエルには届かなかった。いつのまにか、ノエルは眠ってしまっている。今度は規則正しく呼吸しているようで、シャロンは胸をなで下ろす。

シャロンはおもむろに、ノエルにゆっくりと手を伸ばした。途中で止めて、大きく溜め息を吐いてから引いた。

——力の制御など必要ないと思って数百年生きてきたが、この子に触れられるのなら、もう少しだけ頑張ってみるのも悪くない。

自分より遙かにか弱い子供の寝顔を眺めながら、そんなことを思っていた。

【つづく】

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