Prologue.ルナ・アイシュバルト
ルナ・アイシュバルトは愛情を享受できる少女だった。
無自覚に不自由なく育てられ、不運な選別から、混沌の星へ行かざるを得なくなったときも、両親が一緒だったから何も恐れはしなかった。
しかし独りでいることを余儀なくされたとき、それが無くても生きられることに気付いた。
やがて、三人目の親ができた。
「生きたければ金を儲けろ、その術を身につけろ」
養父は突き放すように度々そう口にする。
それは養父自身の存在を、少女が孤独に耐えられるまでの繋ぎと見なしているようで、ルナはちょっとだけ気に食わなかった。
生きるために捨て去ったものを茫漠と振り返ることが増えた。
虚空に帰した倫理。
綺麗事でしかなかった道徳。
合わせ鏡のような幸福。
はたしてその中に、両親の存在が含まれるかが問題だった。
「あんたを愛してるよ、ドルフ」
「あぁ、俺もさルナ」
向かい合った親子の繋がり。その輪郭を撫でるような関係にも、どうやら終わりがあるらしかった。
「だから選ぶんだ、我が娘よ。ルナ・アイシュバルトが進むべき道は、とっくに決まっていたのさ」
捨てたくても捨てられなかった名前、アイシュバルトをあえて口にした養父をルナは見つめる。
そして——。
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