三題噺「13日目」のお題は「鉱床(鉱脈)・職工・バラック」

みんなで「三題噺」の企画。
本日は第13回となります。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

【初心者歓迎!】小説を書く練習として「三題噺」を書いてみませんか?

2019.04.13

それではさっそく。
今回のお題は以下の3つ。
(出題には『どこまでも、まよいみち』というサイト様の『三題噺スイッチ改訂版』を使用させていただきました)

「鉱床(鉱脈)」「職工」「バラック」です。
いつもはバラバラのお題を繋げるのに悩みますが、今回は逆に想像が広がりにくいお題の並びでした。

みなさんはこのお題から、どんなストーリーを創造するでしょうか?

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お題「鉱床(鉱脈)」「職工」「バラック」

虫の鳴き声ひとつ聞こえない夜だった。そもそもこの辺り一帯は切り立った鉱山に囲まれていて、虫や動物はおろか、草木さえほとんど生えない。

そんな中に、ぽつりと頼りない灯りがあった。朽ち果てた木を無造作にツギハギしたようなバラック小屋から漏れている。

「……こんなことは言いたくありませんが、諦めて帰りませんか?」

小屋の中。いつ脚が折れても不思議ではない椅子に腰掛け、青年が言った。椅子の前脚を浮かせてギシギシと弄んでいる。1週間前までなら、こんな行儀の悪いことは絶対にしなかったが、ここを訪れてから感覚が狂ってきているようだった。

「俺はここで朽ち果てると決めている。お前こそ、さっさと諦めて帰るんだな。未来ある若者が、興味本位でこんなとこに居座るもんじゃない」

落ち着いた低い声が帰ってきた。青年の視線の先に、一人の男の後ろ姿がある。振り向きもせず、独り言のように放たれた言葉はどこか遠くにあって現実味がない。

噛み切るのも困難な固いパン。そして具の入っていないスープ。代わり映えしない夕飯を食べ終えた男は、そそくさと工房に立ってしまった。

工房と言っても、とても粗末なものだ。ぼろぼろになった小屋の中の一角に、作業台と錆び付いた工具が数本あるだけだった。

青年が、薄汚れてしまった服のポケットから懐中時計を取り出して、蓋を開いた。幼い頃に両親から貰ったもので、鎖や外装は古びてしまっているが、青年にとっては宝物の時計だった。

カチ、カチと、心地よいリズムを刻む針は、男が作業を始めてから既に一刻以上経過していることを示していた。

見よがしに大きくため息を吐いたが、男は何の反応も見せない。

——国の財務を扱う職に就き、用途不明金を見つけたのは偶然だった。

それが妙な金額で、一般的な国民の収入の十分の一程度の金が毎月、辺境の鉱山に支給されているようだった。気になって調べてみると、その鉱山は二十年以上前に廃鉱になっているはずで、ますます訝しんだ。

先輩に訪ねても、「あぁ、それは……いいんだ」という曖昧な返答しか貰えなかった。

微量とはいえ国民から預かる金を蔑ろにできるかと、若者特有の正義感を自覚しつつここを訪れたのが一週間前だ。

廃鉱になったはずの鉱山では、一人の壮年の男が毎日飽きもせず、ひたすら手作業で岩を掘り進め続けていた。一心にピッケルを振り下ろし、夜明け前から日が沈むまで作業を続ける。その後は、この小屋に戻って粗末な夕食を済ませ、ああやって工房で作業してから眠りにつく。

その繰り返しだった。

青年はなぜか帰る気も起きず、この一週間、ひたすらにその姿を眺めていた。男の考えは分からないが、その姿を馬鹿にしないでいられた自分に、救われたような思いがしていた。

「俺は、二三年前、ここに連れられてきた」

カン、カン、と静かに工具を叩く音に交じって、男が口を開いた。

青年は沈黙をもって、話を促した。

「ここに、未知の鉱物が眠っていると国の研究者が言い出したらしい。詳しくは知らないが、文明を一新するほどの鉱物なんだと」

青年もその記録については目にしていた。

その鉱物さえ見つかれば、飛躍的なエネルギー革命が世界中にもたらされるはずだった。

しかし……。

「こんな辺境の地だ。人も道具もなかなか揃わねぇ。加えて地盤がもろくて、しょっちゅう地崩れを起こしやがる。仲間が、大勢死んだよ」

それでもなお強行された鉱山の発掘は、五年続いたところで打ち切られた。

新たな研究によって、期待された鉱物の信憑性が揺らいだからだった。

「帰還命令が出たときに残っていたのは、俺を含めて六人だった。全員が、ここに残ることを即断した。——みんな、身寄りのない奴ばかりだったしな」

含み笑いを零した男の心中を、青年は計り知れない。

「俺が最後の一人だ。俺は、ここで生き抜く」

工具を置いた男が振り返った。

長い年月が皺を刻み、白髪交じりになった男の姿だった。みすぼらしい服を着ているのに、それを誇っているようだった。

青年は、思わず込み上げた。

「帰る気は、ないのですね……」

「あぁ」

“この場所に、何も埋まっていないとしても?”

そう尋ねることがはばかられて、逡巡し、結局口にはしなかった。それはきっと、目の前の男にとって愚問にしかならない。

そんな若者の心中を察したのか、男が困ったように笑んだ。

「この一週間は、わりと楽しかった。人とまともに話したのは久しぶりだ」

男が机の上に何かを置いた。美しい金属音が、青年の耳に優しく響いた。

銀の鎖だった。おそらくは青年の懐中時計のためにつくられた一品だった。使用感の出た時計本体と合うように、光沢を絶妙に押さえてある。

そのつなぎ目、ひとつひとつが、男の手作業で真心込められたものだった。それが、一目で判ってしまった。

「餞別だ。お前も、自分の人生を生きろよ」

“お前も”。その言葉にすべて報われた思いがするのは、青年の思い上がりだろうか。

青年は抱きしめるような大切さで、美しい銀の鎖を手に取った。

翌日、青年は小屋を発った。生命のない大地から見上げる大空は、いつになく青かった。

 

【完・54分で2061文字】

あとがき

お題から連想できたのが、古びた小屋で寝泊まりし、ひたすらに鉱山を掘り続ける男の姿でした。

その過去と由縁を想像しようして、まだまだ僕には推し量れないところにあると気付きました。
だから、男の心情を想像するしか術のない若者を登場させました。

自分で書いておいて何ですが、人の生き方はそれぞれと思わされました。
幸せの感じ方は、結局のところ主観でしかない。そんな感じのことを書きたかったのかもしれません。

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