みんなで「三題噺」の企画。
本日は第15回となります。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
それではさっそく。
今回のお題は以下の3つ。
(出題には『どこまでも、まよいみち』というサイト様の『三題噺スイッチ改訂版』を使用させていただきました)

「毬(栗のイガ)」「逃げる」「食器(椀)」となりました!
お題「毬(栗のイガ)」「逃げる」「食器(椀)」
栗のような少女だった。
人を栗に例えるような表現はあまり聞かないが、俺にとってまさしく彼女は栗だった。
中身は柔く美味いくせに、それをひた隠すように過剰とも呼べるイガで身を守っている。
「手が止まっていますよ。やる気がないなら帰ってもらって大丈夫です。あとは私が片付けておきますから」
平坦な声で彼女が言った。言いながらも、その手は黙々と仕事をこなし続けている。
夕暮れの生徒会室。残っているのは俺とこの少女だけだった。
「はいはい、ちゃんと働きますよ」
返事の代わりになったのは、彼女が書類をめくる音だった。
出会って二年以上経つのに、彼女とは事務的な会話以外まともにした記憶がない。彼女のまとうイガのような雰囲気が、俺にとっては隔絶の意思表示のように思えて仕方ない。それは、あるいは逃げでしかないのかもしれないが、逃げている意識があると、返って動けなくなってしまうのもまた事実だった。
「最初に栗を食ってみようなんて考えた奴は偉大だな」
少しだけ突っ込みを期待しながら、脈絡のないことをわざわざ口にしてみたが、予想通り彼女からの返答はなかった。それに安心した自分が恨めしい。
ちらりと彼女を見やった。
艶のある真っ黒な髪と、透き通るような白い肌。今は俯いていて見えないが、瞳は黒真珠のように美しい。目が合うと、吸い込まれそうになる。
生活感を感じさせない白く華奢な指先が、止め処なく書類仕事をこなしていく。
——俺なんかいなくても、こいつ一人いれば生徒会は十分やっていけるんだろうな。
ひがみでもなんでもなく、単純な事実としてそんなふうに思って、すこし落ち込んだ。
「あんたさ、どうして俺を近くに置こうと思ったわけ?」
独り言のような問いだったのだが、今日初めて少女が手を止めた。次いでゆっくりとこちらを見た。
彼女の身長は低めだ。座った状態でも、自然と見上げられる形になる。先ほどは想像の中にあった深い瞳で実際に見つめられ、どきりとした。
彼女は名家の娘で、容姿と才能にも恵まれている。中等部にいるときから有名人で、高等部に入学したとき、彼女を生徒会長にという声が上がった。教師陣までそれを推したのだからその期待度が窺える。
当初彼女は生徒会長になることに前向きでなかったようだ。今と変わらぬ淡泊さで、飄々と周りの声を受け流していたが、ある日こう言った。
『彼を副会長に据えてくれるのでしたら、お引き受けしましょう』
以降、俺は三年になった今も副会長を続けている。
ただ同じ学校に通い、同じ学年なだけだったはずの俺は、雲の上の人だと思っていた彼女に指名を受けて面食らったものだった。
「俺、あんたと会ったことなかったよな?」
おそるおそる尋ねると、彼女は少しだけ寂しげな表情を浮かべた。その表情(かお)が、俺の心をしめつけた。
「きみなら、毬(いが)どころか、お皿ごと食べてくれそうだったから」
俺は一瞬ぽかんとなったが、先ほどの俺の独り言をなぞっているのだと合点して、なんだか恥ずかしくなった。
彼女はまだ俺を見つめている。時間が、止まったようだった。
しかし、お皿ごとね……。
“毒を食らわば皿まで”という意味で使っているのなら、あんまりな自虐だった。
「あんたは毒入りの身を食わせないために、イガで守ってるって?」
笑い話にしようと試みたが、彼女は自嘲気味に笑んだだけだった。妙に、妖艶な笑みに思えた。
「食べてみる気になったら、いつでも言ってね?」
それだけ言うと、また仕事へ戻っていってしまう。
そんな彼女に勝てる気はしなかったが、同時に、勝ってみたいとも初めて思った。
昔、戦国武将には討ち取った敵将の頭蓋を器にして酒を楽しんだ者がいたらしい。現代の感覚では悪趣味に思えるが、それは弔いの意味もあったんだとか。
脈絡もない知識が思い浮かばされ、それでも俺は、今まさに戦場に立ったような気分になっていた。
【完・46分で1571文字】
あとがき
ラブコメを書きました。書く予定でした。
書いていたらラブ要素は難解になり、コメディ要素は皆目見失いました。
ラブコメってどうやって書くんでしょうね・・・。
まあバリバリの長編ラブコメを書く予定は今のところありませんが、ラノベを書く以上必要な要素になってくるので、もっと練習していきたいところです。
あと、僕は人物描写が下手ですねぇ。
才色兼備の少女を描写したかったのですが、ありきたりな単語を並べるだけにとどまってしまいました。
この辺りは練習といいうより、勉強や研究が必要そう。
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