三題噺「16日目」のお題は「闇・仙人(仙女)・石鹸」

みんなで「三題噺」の企画。
本日は第16回となります。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

【初心者歓迎!】小説を書く練習として「三題噺」を書いてみませんか?

2019.04.13

それではさっそく。
今回のお題は以下の3つ。
(出題には『どこまでも、まよいみち』というサイト様の『三題噺スイッチ改訂版』を使用させていただきました)

「闇」「仙人(仙女)」「石鹸」となりました!

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お題「闇・仙人(仙女)・石鹸」

「ルクス、忘れ物だ」

出がけに声をかけられて振り向くと、養父は大きな葉に包まれた物体を投げてよこした。

ルクスはそれを片手で受け取ると、包みを開いて中を確認する。中身は真っ白な石けんだった。清々しい香りの中に、独特の薬草のような匂いがわずかにある。

「ちゃんと清めてきなさい」

それだけ言うと、養父は背を向けて行ってしまう。

「ジジイ、ありがとよ」

礼を投げかけると、養父は振り返りもせずひらひらと手を振ってみせた。

相も変わらず、仙人らしくない立ち振る舞いだが、ルクスにはそれが心地よかった。

——少なくとも、今の生活を続けているうちは自分が闇に吞まれる心配は不要そうだと思いながら外へ出た。

今日の獲物は猪だった。

気性の荒い獲物ではあったが、いつも通り武器も使わず手刀で一撃の下に沈めている。

食用だからその場で捌いた方が良い。川のほとりに獲物を横たえ、先ほどは攻撃に用いた手刀を、今度は顔の前で立てた。ゆっくり目を瞑り、感謝の意を心にする。

しばらくそうしてから、血抜きを始めた。

いつもの通りの工程なのだが、今日は少しばかり状況が異なる。

ルクスは小さく溜め息して、背後の気配が帰る気のないことを確かめた。

「なんだ? 肉が欲しいのか? だったら少し待ってろ」

川の音に負けぬよう言ってやると、ようやく背後で動きがあった。

「い、いえっ! お肉をいただきたいわけではありません!」

木の陰からガサガサと現れたのは一人の少女だった。近くの村の者だろう。

「助けていただいたお礼をしたくて。村にいらしてくれませんか?」

視線をよこしもせず血抜き作業を続けるルクスに、少女はおそるおそるといった様子で近づいていく。ルクスとしては、面倒なことになったという心境だった。

「助けたつもりはない。獲物が、偶然お前に襲いかかっていただけだ」

「たとえそうだとしても、私が助けられたという事実に変わりはありません!」

見た目は儚げな印象だったが、どうやら相当に強情な性分らしく、少女は引く様子を見せない。

「面倒なやつだ……。なら、猪の解体できるか?」

「はいっ!」

期待せず尋ねてみると、途端に少女の声がはねた。ルクスが思わず少女を見ると、いかにも嬉しげな表情をしている。

「ほんとか? かなり重労働だぞ」

「侮らないでください。慣れていますので」

言いながらさっそくルクスの隣に屈み込み、両手を合わせて祈りを捧げている。目を閉じたその端正な横顔に、ルクスは不覚にも一瞬見惚れた。

そんなルクスには目もくれず、祈りを終えた少女はすでに腕まくりしてルクスの用意したナイフを手にしていた。

最初こそはらはらした心持ちで見ていたルクスだが、なるほど少女の言葉に嘘はなかったようで、みるみる間に猪が捌かれていく。

「任せて大丈夫そうだな。俺は沐浴してくるからな」

そう言ってルクスが立ち上がると、少女は聞いていたのか怪しい様子で快活な返事をよこした。よほど解体に集中していると見えた。

少女から見えない岩陰で川に入り、まずは血のついた手を洗った。赤色が滲んで流れていくのを横目に、衣を脱いで上半身裸になる。その肌には、真っ黒な紋様がいくつも浮かんでいる。

魔属の証であるその紋様を、ルクスは自ら忌々しげに睨み、養父にもらった石けんを手にして身を清めた。仙人である養父のつくった石けんは魔を払う効力を秘めている。ルクスが今日まで魔の闇に吞まれず生活できているのは、この石けんのおかげだった。

沐浴を終えて少女のもとに戻ると、なんと既に解体をほぼ終えていた。

ルクスに気付いた少女が顔を上げ、にこりと笑んだ。額には玉のような汗が浮かび、頬には僅かに猪の血が付いている。そんな姿なのに、妙に愛嬌が感じられるから大したものだとルクスは思った。

「驚いた。大したもんだ」

「でしょう? お役に立てましたか?」

「解体はキツいからな。助かったよ。ありがとう」

素直に礼を口にすると、少女は安心した様子でまた破顔する。

「手と顔を洗ってきな。これ、使ってくれ」

ルクスが葉に包まれた石けんを手渡すと、少女は不思議そうな顔でそれを開き、

「あ、これ……。私がつくった石けん?」

などと言い出した。

「は? 違うぞ。それは俺の養父がつくったものだ」

ルクスは訝しげな心境で訂正してやるが、少女は石けんを手にして顔に近づけるとその香りを嗅ぎ、確信したようにふるふると首を振った。

「いえ、間違いありません。私の家で代々伝わってきた配合独特の香りがしますから。……そういえば、定期的に村を訪れてこの石けんを買ってくださる男性がいるのですが、その方が、あたなのお父様なのではありませんか?」

少女の言葉をどこか遠くに聞いていたルクスは、頭の中で真実を徐々に飲み下し、それにしたがって腹立たしさが湧いてくるのを感じていた。

「あのくそジジイっ……!」

握り拳をつくって苛立ちを露わにしだすルクスを前にして、少女がしまったという顔をした。

「い、いえっ! 私の勘違いだったかもしれません! よく見ると、確かにちょっと私の石けんとは違うかも知れません!」

必死に弁明を始めるが、すでにルクスの耳には届いていない。

果たしてルクスは、つい口を滑らしてしまう。

「何が“この石けんにはお前の魔力を抑える効力がある”だ! 普通の石けんじゃねぇか!」

「え?」

魔力という言葉に驚いて、少女が瞠目した。

その様子に気付いたルクスは、一気に血の気が引くのを感じた。

「あ、いや……」

なんとか言い逃れようと思ったが、こういうときに限って言葉が浮かばない。

目の前の少女が恐れおののき、自分から逃げていく光景が容易に思い浮かび、何だか悲しい気持ちになった。

しかし、少女がとった行動は、ルクスが予想もしていないものだった。

「ちょっと、失礼しますね」

驚きから立ち直った少女は、あろうことかルクスの衣を手でまくった。当然、魔属を表す紋様が露わになってしまう。

「わ。ほんとうだ。私、魔人さんにお会いするのは初めてです」

ずいぶんと間の抜けた感想を零す少女だった。

「……それだけか? 普通は怖がって逃げ出すと思うんだが」

「確かに魔属に出会ったらとにかく逃げるよう強く言われていますが、今更ですしねー。それにあなたは……って、ごめんなさい! 服、汚してしまいました!」

まじまじと紋様に見入っていた少女が、おおかた見当違いな謝罪を口にしだした。見ると、たしかに血の付いた手で握られたルクスの衣には、少女の小さな手形がくっきりと浮かんでいる。

どうしよう、と慌てふためく少女を唖然と見ながら、ルクスは思わず吹き出してしまった。

「あんた、相当な変わり者だな」

これがルクスと少女の初めての出会いとなった。

【完・86分で2667文字】

あとがき

いつもながら思いつくままに書き出したのですが、今回は着地点が見えず、結局無理矢理終えました。

このまま長編に突入してもおかしくない展開ですね。
この後の話もいろいろ浮かびますが、ありきたりなお話にしかならなそうな印象です。

小説を書き出したばかりの頃、会話文と地の文の書き方やバランスに悩みましたが、未だに改善の余地は多分に見えますね。
会話文ばかりでもいけないし、地の文を挿入しすぎても回りくどくなってしまいます。

ただ、昔は「○○が言った」としかかけなかった地の文が、今は少しだけバリエーションが増えたように思えました。

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