三題噺「17日目」のお題は「野菜・言葉・せいろ」

みんなで「三題噺」の企画。
本日は第17回となります。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

【初心者歓迎!】小説を書く練習として「三題噺」を書いてみませんか?

2019.04.13

それではさっそく。
今回のお題は以下の3つ。
(出題には『どこまでも、まよいみち』というサイト様の『三題噺スイッチ改訂版』を使用させていただきました)

「野菜」「言葉」「せいろ」となりました!

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お題「野菜」「言葉」「せいろ」

「おかーさん、今日学校でね——」

帰宅した息子がランドセルを背負ったまま台所に駆けてきた。

その声は楽しげに弾んでいて、きっと何か良いことがあったのだと私まで幸せな気持ちにさせられる。

「おかえり。まずは手を洗いなさいね。話はその後、ゆっくり聞かせてもらうから」

「はーい」

ちょっとだけ残念そうに。それでも息子は背伸びしながら蛇口をひねり、バシャバシャと手を洗い始める。その光景に、私は思わず口元が綻んでしまう。

「ねぇ、それなに? もしかして、蒸しパン……っ!?」

手を洗い終えた息子は、私がせいろで何か蒸しているのに気付き、自分の好物である蒸しパンではないかと目を輝かせた。

私は苦笑を零しながら首を振った。

「ごめんね、違うわ。お野菜を蒸しているのよ」

予想通り、息子は途端に渋い顔をした。そして、少しだけせいろに顔を近づけ、鼻をすんすんと鳴らす。

「ぼく、野菜きらい……。蒸しているとこんなに甘い匂いがするのに、食べるとすごく苦いから……」

確かに新鮮な野菜をせいろで蒸すと、とても良い匂いがする。

(——私はお母さんの蒸してくれる野菜、好きだったな)

そんな匂いにつられて、幼い頃の記憶が蘇った。

実家では畑で野菜を育てていたから、採れたばかりの野菜をよく母が蒸してくれた。友達はみんな野菜が嫌いと言っていたが、私は母の蒸してくれる野菜が大好きだった。

学校から帰ると、料理する母の隣でいろいろ話した。話したいことがとにかく沢山あって、ずっと話していた記憶がある。

そのときの母の幸せそうな横顔や、せいろから零れる甘い匂いはこんなにも鮮やかに思い出せるのに、あんなに沢山話したはずの言葉は一つも思い出せなかった。

きっとこれは、それくらい大切な思い出なのだと、なんとなく思った。

「それでね——」

息子が楽しげに話す声を耳にしながら、この子もいつか、こんなふうにこの時間を思い出すのだろうかと思った。

それは言葉で尽くせないほどの幸福で、同時に少しだけ寂しくもあった。

(——お母さんも、こんな気持ちだったのかしら?)

途端に生まれ育った家が恋しくなり、良い大人がなにをと思った。

でもたまには、この子を連れてあの家に帰るのも良いかもしれない。

記憶の中の母と同じように、せいろの蓋を開く。

湯気の中から現れた色鮮やかな野菜たちを見て、私は微笑まずにいられなかった。

【完・23分で952文字】

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あとがき

匂いと記憶って、けっこう密接に繋がっていると思います。
懐かしい匂いで記憶が呼び起こされる経験は、誰もがしたことあるのではないでしょうか?

そんな思いつきから書いた今回の三題噺。

母親の一人称で、穏やかな言葉選びを意識しました。
温かな空気感を演出することには、ある程度成功していると思います。

僕は特定の文体を極めるよりも、その作品やシーンに合った文体で書き分けられるようになりたいと思っているので、今後も三題噺でいろいろ試していこうと思います。

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生きてる内にあとどれだけ書けるだろう
同じ執筆量で、より巧く。

無思考で書くのは、ほんとうに勿体ない。
たった少しの意識で、あなたの小説はもっと良くなります。




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