三題噺「18日目」のお題は「山崩れ・結婚式・杖」

みんなで「三題噺」の企画。
本日は第18回となります。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

【初心者歓迎!】小説を書く練習として「三題噺」を書いてみませんか?

2019.04.13

それではさっそく。
今回のお題は以下の3つ。
(出題には『どこまでも、まよいみち』というサイト様の『三題噺スイッチ改訂版』を使用させていただきました)

「山崩れ」「結婚式」「杖」となりました。

お題「山崩れ」「結婚式」「杖」

山全体を見渡せる岩場にいた。

胡座をかいて頬杖し、ただただ山を見下ろす。と、肌がひりつくような嫌な感覚があった。

——あぁ、またか。

そう思った次の瞬間には、見下ろした山の斜面の一角に変化が現れていた。わずかに木々の輪郭がぶれたかと思うと、それがゆっくりと傾ぎ、徐々に倒れながら地を滑っていく。それは徐々に大きな波へと派生し、辺りを呑み込む山崩れとなっていた。

地崩れの轟音は相当のものだろうが、岩場にいる青年の場所には、ただ虚しくこだまして聞こえるだけだった。

ただ、青年のその身は、文字通り張り裂けんばかりの痛みを伴っていた。

「何の用だい?」

背後に人の気配を感じて、青年は振り向きもせず声を発した。

「また、崩れましたね」

返ってきたのは鈴の音を鳴らすような、美しく済んだ声だった。

意外に感じて青年が振り返ると、ひとりの女性が立っていた。いや、正確には、女性であろう人物だ。

山を登るには極めて不適切なローブに身を纏い、手には身の丈ほどの杖が握られている。一見して魔導師と判る人物だが、目深にフードを被っているのでその容貌を窺うことは叶わない。

「この山はもうだめだな。魔力が尽きて、命を保てなくなっている。あんた、麓の村の者か? だったら、いい加減に村を離れる決断を下せ。まだしばらくは村に危害は及ばぬだろうが、限界はある」

諭すように青年が言うと、その魔導師はくすりと笑った。口元だけしか窺えないにも関わらず、青年にはその所作が妙に品あるものに感じられた。

「何が可笑しい?」

「いえ。他人事のように仰るくせに、やはり優しい方だと思いまして」

心底楽しげでいる魔導師に、青年は眉根を寄せる。目の前の人物の目的を推し量ることが困難だった。

「私を覚えていませんか?」

青年の胸中を見透かすように、魔導師がゆっくりと被っていたフードを脱いだ。

太陽のような金色が印象的な、美しい女性だった。

髪も瞳も、日光を跳ねるような金色。色白の肌に、くっきりと整った顔立ち。なにより、微笑を湛えるその相貌こそ彼女の本質を現すようだった。

青年に、こんな女性と会った記憶はない。失礼という考えすら浮かばず、記憶の糸を辿るように女性の顔をじぃと見つめ、それでも思い出せないことを確認した。

「……悪い。記憶にないな」

「でしょうね。10年以上前の話ですから」

女性は気を悪くした様子も見せず、ヒントとばかりに言う。

「10年前……。あぁ、あの子か」

「思い出していただけました?」

女性の表情がさらに華やいだ。

「一人で山に入って迷子になってた子供だな。なるほど、人の成長とは早いものだ。ついこの間、泣きべそかいてたのに、今ではもう大人の女か」

「ふふ、貴方は変わりませんね。見た目も、その落ち着いた声も、あの頃のまま」

大切な記憶を抱きしめるように、一言一言温めるように言葉を紡いでいる。

「その言い方だと、俺の正体にも気付いてるわけか」

「はい!」

快活に、何より嬉しげに女性が笑った。

「貴方は、この山そのものなのですね。だからあのとき、真っ暗な山の道でも迷うことなく、幼い私の手を引いてくれた」

「もはや死に体だがな。隠す術も必要もないから言うが、もうひと月もすればこの山は崩れるぞ。さっさと村人全員で逃げろ。あいつら、何度忠告しても動きやがらない」

「それは仕方のないことですよ。私たちは先祖代々、貴方と共に生きてきた。だから貴方が死にゆくのであれば一緒です」

譲る気はないといった明確さで女性は言う。

青年は顔をしかめるしかない。

「馬鹿が……」

悪態をつきながらも、いかに村人たちを説得するか、青年は思考を巡らせ続けている。

すると女性は青年の前に屈み込んで、杖を側らに置いた。ゆっくりと白く華奢な手を伸ばすと、青年の頬に触れた。

その、少しだけ冷たい体温と、なめらかな感触に青年は瞠目した。

「でも——、そんなことにはならないでしょう」

女性が子供のようにふにゃりと笑んだ。青年にはなぜか、その姿が迷子になっていた少女のものと重なった。

「それはどういう——」

「私が“山の巫女”になります」

「……駄目だ。人に戻れなくなる」

青年は首を振ってみせるが、なんとなく、この女性が退かないであろうことが察せられていた。

自然を司る存在は、なにも青年だけではない。山に川に太陽に。全ての自然には、青年のような思念体が存在する。

彼らがその身に宿した魔力によって自然はその姿を保っていた。だから、彼らの魔力が尽きたとき、自然は災害を起こす。だから彼らは、それを防ぐために、人から伴侶を得る。

伴侶となった魔力の強い人間は、人としての身体を失い、その魔力が尽きるまで宿主となったものに添い遂げなければならない。

「あんなものは、生け贄も同然だ」

言いながらも、青年は金色の瞳に射貫かれていた。

「私では、貴方の伴侶として不足でしょうか?」

「そんなことは……」

「なら問題ありませんね!」

渋る青年の手を、女性が両手で取った。

「私と結婚してください。必ず幸せにします!」

そう微笑まれてしまっては、勝てる気はしなかった。

【完・68分で2044文字】

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あとがき

18作の三題噺を書いてようやく気付きましたが、設定だけ思いついて書き出すと終着点を見失いますね。
当然と言えば当然ですが、テーマとラストを決めていないと延々と書くことになります。
まあ、それはそれで面白くもあるのですが。

今回も「山の精霊」的な存在と、「巫女」的な存在を結婚話に繋げよう、という設定だけ決めて書き始めたので、終えどころが判りませんでした。

あと、これは以前から気付いていたことですが、僕が書くと「笑顔」の描写が異常に増えていく傾向にあります。
表現そのものは工夫するようにしていますが、これもどうなのかと思う次第。
感情の描写についてももう少し工夫していけるようにしたいですね。

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