三題噺「19日目」のお題は「雪・大きい・ソース」

みんなで「三題噺」の企画。
本日は第19回となります。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

【初心者歓迎!】小説を書く練習として「三題噺」を書いてみませんか?

2019.04.13

それではさっそく。
今回のお題は以下の3つ。
(出題には『どこまでも、まよいみち』というサイト様の『三題噺スイッチ改訂版』を使用させていただきました)

「雪」「大きい」「ソース」となりました。

お題「雪」「大きい」「ソース」

寒い。もはや寒さを通り越して痛いくらいだ。指先なんて、すでに感覚がなくなっている。荒くなった呼吸を整えようと息を吸うと、冷気が身体の内側から刺してくる。

俺、もしかしてこのまま死ぬんじゃないか?

「おい……まだ間に合う。帰ろうぜ……?」

吹雪で前が見えねぇ。前を歩いているはずの灯里に懇願してみたが、きっとあのバカは受け入れてくれやしないだろう。

「何、言ってんのさ……灯夜。あと、少し……だよ!」

フードとゴーグルで顔が隠れてるから表情はまったく見えない。けど、どう見ても灯里だって息絶え絶えだ。それでもまったく足を止めようとしないんだから、呆れを通り越してもはや尊敬する。

「くそっ……なんで、こんなことに……っ!」

こいつとは長い付き合いなのに読み切れなかった俺も確かに悪い。けど仕方ねぇじゃないか。どう想像力を働かせたって、大量のいちごを差し入れたのをきっかけに、雪山を登るはめになるとは思い至らないだろう?

まあ……それを現実にしちまう規格外のバカが俺の幼馴染みだったわけなんだが……。

話は少しだけ遡る。

俺は親戚の農家から大量のいちごを貰った。形や大きさの問題で商品にできない、いわゆる規格外のいちごだったが味は抜群だ。それを幼馴染みである灯里にもお裾分けしてやったわけだ。

——それがまずかった。

いや、一時はいい思いをしたんだ。具体的には灯里の手料理を堪能できた。

灯里は超の付く料理バカで、暇さえあれば料理やその勉強に勤しんでいる。自称“スタイルを持たない料理人”の灯里は、あらゆる料理に精通していた。日本食に始まり、フレンチ、イタリアン、中華などメジャーどころは当然のこと、俺が初めて耳にするような国の郷土料理も再現してみせる。

で、当然日本人の口に合わないような料理もよく振る舞われるわけだが、ここからが灯里のすごいところで、そこからオリジナルを加えて改良してくる。悔しいことにこれが毎度絶品だ。

幼い頃から味見役、兼毒味役だった俺は、割りを食わされつつ、それ以上に美味い物を食わせてもらってきた。

だから今回も、いちごを差し入れることで美味い物を振る舞ってくれるのではという期待が、正直俺にもあった。うん、そこは認めよう。

実際、ショートケーキやタルトなど、数々の絶品いちごレシピを堪能した。

それで終われば幸せだったのだ。まずかったのは、いちごの量が多すぎたことだ。

余ったいちごを灯里は、本当にそんな面倒な工程が必要なのかと俺が思うくらい丁寧に丁寧にシロップにした。それを瓶詰めして、それはそれは幸せそうに光にかざして眺めた。

確かに、俺から見ても呆れるほど綺麗で、味も最高のシロップだった。

ひとしきり眺め終わった後、瓶を机に置いた灯里が曇りなき笑顔で俺を見た。

幼馴染みの俺は長年の経験から直感した。これから大変な事態になると。

そしてそれはすぐさま現実のものとなった。

「灯夜! 最っ高の氷でかき氷をつくるよ!」

あれから3週間と少し。俺は灯里に連れられて吹雪の雪山を重装備で登っている。

「どんな思考回路してんだよ……。普通に取り寄せろよ。なんで自ら氷取りに山登るんだよっ。どんな行動力してんだよ……っ!」

もはやうわ言のようで、俺自身意図して口を開いていない。

ああ、眠くなってきた。足が棒みたいだ。

……こんな死に方するなんて思わなかったな。

俺が歩きながら眠るという超絶技巧を実践しようと思ったとき、

「見て、灯夜! 頂上だよ!」

バカの元気は底なしなのか、灯里の黄色い声が聞こえてきた。

幸運なことにあれほど吹雪いていたのが嘘のように、晴れ間が見える。

頂上に到着するや、灯里は氷の塊を削り出し、いそいそと大きなリュックを開いた。なんとそこから、かき氷器を取り出した。どう見ても家庭用の安物ではない。こいつが使うのだから結構な上物だろう。

さらに次々とリュックから物が取り出されていく。

例のいちごシロップが入った大瓶(絶対あの量は必要ない)、大量の器とスプーン(俺たち二人とガイドを合わせてもあんな数は必要ない)、大きなレジャーシート(今おまえ、直に雪に座ってんじゃねぇか)、さらに色とりどりのいちご以外のシロップ(増えてるし……)。

一人だけやたら大きなリュック背負ってると思ったら、あんな大量の荷物持ってやがったのかアイツ。言ってくれりゃ、少しくらい持ってやったのに……。

俺とガイドが唖然としているなか、灯里は意気揚々とかき氷をつくっていく。

それを大量の器に入れ、次々と配って歩いた。

「お好きなシロップでどうぞ!」

ガイドたちも半ば気圧されるようにそれを受け取っている。わかる。突っ込みどころが多すぎて、頭回らないよな。

「灯夜もおつかれ。一緒に食べよ!」

両手に真っ赤なシロップがかけらたかき氷をのせ、灯里が俺の隣に腰掛けた。

俺はそれを1つ受け取り、親の敵のように睨みつけた。

「こいつのために俺はあんな苦労を……」

最初こそ恨めしい思いだったが、真っ白なふわふわ氷に、わずかに形を残したいちごシロップが宝石のように輝いていて、負の感情は一気にふっとんでしまった。

我ながら簡単な性格だと思いつつ、スプーンで口に運ぶ。

「……美味い」

ふわりとした食感はすぐに溶け去ってしまう。いちごの酸味に、灯里が丁寧に作り上げた甘みが相まって、表現しがたい幸福となって口の中に広がった。疲れ切った身体には、この冷たさすら嬉しい。

ふと視線に気付いて隣を見ると、してやったりという表情で灯里が俺を見ていた。どうやら俺は余程幸せそうな顔をしていたらしい。

「次は何を食べに出かけようね、灯夜?」

灯里自身、さも幸せそうにそんなことを言っている。

「普通の家庭料理を所望する……」

きっと聞き入れてはもらえない願望を口にしながら、灯里が次に何を言い出すのか、俺もちょっと楽しみになっていた。

【完・78分で2362文字】

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あとがき

心の声をダイレクトに書く一人称に挑戦しました。

僕はどちらかといえば三人称の方が得意です。
そのせいか、一人称で書いてもどこか俯瞰した書き方になるんですよね。
表現が難しいのですが、その人物が一歩退いたところで語っている印象です。

今回はそうではなくて、心の声をそのまま書いてみたわけですが・・・。
初めての試みでしたが、ちょっと油断すると三人称寄りの視点へズレていってしまい難しかったです。

この文体で生き生き書ける人はきっと、完全に人物に入り込んで書けているのでしょうね。
僕にはまだ難しい領域です。とはいえ、今後もこの文体も磨いていこうと思います!

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