みんなで「三題噺」の企画。
本日は第4回となります。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
それではさっそく。
今回のお題は以下の3つ。
(出題には『どこまでも、まよいみち』というサイト様の『三題噺スイッチ改訂版』を使用させていただきました)

ということで「雨」「逃げる」「カップ」です。
比較的、書きやすいのではないでしょうか?
お題「雨」「逃げる」「カップ」
「ご一緒しても?」
楽しげな声音で尋ねると、彼は読んでいた本から目を離して顔を上げた。でも私に視線を寄越したのは一瞬のことで、すぐにまた本の世界へ帰っていってしまう。
「構わないけど、話し相手になるつもりはないよ」
目線は字を追ったまま、それでも快い返答をいただけたので、私はテーブルをはさんで彼の正面に腰掛けた。彼の態度がつれないのはいつものことだし、私にしてみればそんな素っ気なさも心地よかった。
寂れた喫茶店の中だ。学校帰り、通り雨に見舞われたのだが、あつらえたようにこんなお店があったのはラッキーだ。
しかもこれまたあつらえたように、暇つぶしの相手がいるとは。
濡れてしまった右肩とカバンをハンカチで拭いたところで、感じの良い店員さんが注文を取りに来てくれた。「彼と同じものをください」と頼んだら、ブラックコーヒーを出されたのはちょっと誤算だったけれど……。
「キミも雨宿り?」
返答は期待せず言ってみた。
応えの代わりに、ページをめくる音が返ってくる。
思わず、くすりとしてしまう。
心地よい沈黙がしばらく続いた。彼は私の存在なんて認識してないように、読書を続けている。私はスマホをいじりながら、そんな彼を時折眺めていた。
(なんか、いいなぁ)
自分で言うのも何だが、私はとてもコミュニケーション能力に優れている。私の周りにはいつも友人たちがいて賑やかで、自分でもそんな空間が好きだった。
でも、たまにはこんな時間も悪くないと思う。いや、たまには、よりもう少しだけ多い頻度でこんなふうに過ごしたいところだ。
最初こそカップの中の真っ黒な液体を、親の敵のように睨んでいた私だが、何度か口に含んでみるうちに、この苦みにも慣れてきてしまった。
(案外ブラックでも飲めるものね)
あるいは、目の前にいる彼と同じ物を口にしているからかもしれないが。
なんとなく窓の外をみやると、雨足はずいぶんと弱まり、晴れ間も見えてきていた。
カップの中身も、すでに大半がなくなってしまっている。
私はカップが空になることから逃げるように、ちびちびとコーヒーを飲んだ。
「急いで帰る予定ある?」
彼が唐突に口を開いた。
思わずどきりとした私なんて知らないように、彼は相変わらず本から視線を離さないでいる。投げかけられた言葉の内容と、ふいに感情を揺らされたことの悔しさから、少しはこっちを見なよという悪態が頭に浮かんだ。
「別にないよ。あったら、多少濡れてでも走って帰ってるし」
平静を装って言うと、彼は感情薄く「そうか」とひとつ頷いた。
「じゃあ、もう少し付き合ってくれ。おごるよ」
そう言って彼が注文したのは二つのカプチーノ。見透かされた気がして気恥ずかしくなった。
顔が紅くなってやしないかと心配になる私に、彼はさらに爆弾を投下する。
「あとさ、あんた、折りたたみの傘持ってるだろ? 俺が雨宿りに来てからしばらく時間が経っていたが、あんたが雨に濡れてたのは肩とカバンだけだったもんな」
そう言った彼は、少し意地悪で、そして楽しげな表情をしていた。こんなときだけ、まっすぐに私を見るのは本当にずるいと思う。
今度こそ、私は顔を真っ赤にしてうめき声を上げた。
【完、42分で1289文字】
感想
大幅にタイムオーバーでしたが、一応最後まで書きました。
一人称は言葉選びが楽しいですね。
この場合この子はどんな言い回しをするのだろう、みたいな。
僕は普段、三人称で書くことがほとんどで、しかもけっこう硬めの文体なので、一人称は新鮮に感じます。
逆に言えば、よりキャラクターづくりが大切になってくると実感しました。
自分と性別が違うキャラだと、より難しいです。
内容としては喫茶店での雨宿りでしたが、お題の「逃げる」が少々無理やりだったかと反省。
でも今日はいつも以上に書いていて楽しかったです。
みなさんの三題噺もぜひ投稿してみてくださいね。
(投稿は下のコメント欄からどうぞ)
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