三題噺「7日目」のお題は「春・金持ち・鞄」

みんなで「三題噺」の企画。
本日は第7回となります。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

【初心者歓迎!】小説を書く練習として「三題噺」を書いてみませんか?

2019.04.13

それではさっそく。
今回のお題は以下の3つ。
(出題には『どこまでも、まよいみち』というサイト様の『三題噺スイッチ改訂版』を使用させていただきました)

本日のお題は「春」「金持ち」「鞄」となりました。
昨日の「夏」に続いて季節が入ってきましたね。

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お題「春」「金持ち」「鞄」

しんしんと降る雪が、すべての音を呑み込んでしまったような世界。膝の辺りまで積もった雪をかき分けるように、寂れた道を男が進んでいる。

ボロのような服を身に纏っているくせに、挙動のひとつひとつに品格のある男だった。肩に掛けている、一目で大切に使われていると判る大きな鞄が印象的だった。

「寒いなぁ」

あかぎれてしまった両手を顔の前にやり、白い吐息で温める。一瞬だけ熱を持った掌は、すぐにまた外気に晒されて冷え込んでしまった。

男がにこりと笑んだ。空を仰いだ。薄暗い雲から止めどなく降ってくる雪の結晶たち。

“溶けた雪の白さは、何処に行くのだろう?”とは誰の言葉だったろうと、男はふと考えた。結局思い出せなかったが、美しい言葉だと思った。

「もうすぐ、春が来るよ」

遠目に、小さな村が見えていた。

「“春の運び人”さま。この度は、まことにありがとうございました」

村の長の家にいた。

出立の前夜、なけなしの食材をふんだんに使って料理を振る舞ってくれている。申し訳なく思いつつも、男は村人たちの好意を甘んじて受けていた。

「こちらこそ、数日に渡り、とても良くしてもらいまして」

ふにゃりとした人付きのする笑顔で謝辞を口にすると、つられたように村人たちの表情も和らぐ。

「じきに雪は止み、春が来ますよ」

「はい。冬入りして数ヶ月。苦しき日々でしたが、これでまた作物を育てながら生活していけます。あなた様のおかげです」

「いやいや、俺は大したことしてませんよ」

男が村を訪れ、春を呼ぶまじないをかけてから数日。すでに雪足は弱まりつつあった。

「心ばかりですが、これは村の者たちからのお礼です」

そう言って村長が差し出したのは、ごろりとした宝石の原石だった。両掌にこんもり盛るほどの量がある。

男は瞠目し、次の瞬間には優しく目を細めている。

「これは大層なものを。では遠慮なくいただきます」

男がいつも肩に掛けていた大きな鞄。だれもがそこに原石をしまうものだと思った。

だが男は、小さな欠片を指先でつまみ上げると、いかにも大切そうにそれをぼろぼろの上着のポケットにしまった。

今度は村人たちが目を丸くする番だった。

「あの……遠慮は不要です。この原石はこの近辺でしか採掘できないもの。確かに価値あるものですが、あなたが私どもにして下さったことにはそれ以上の価値があります」

村長の真摯な態度に、男はますます嬉しそうになる。

「ありがとうございます。でも、俺はこの身に余る財産は持たぬと決めているのです。お気持ちだけ受け取っておきます」

気持ちの込められた言葉を紡ぎ、さらに続けた。

「代わりといっては何ですが、ひとつお尋ねしてもよいでしょうか?」

「もちろんです」

村長が即座に返した。
男が、机の上に積まれた原石をつついた。

「これを売れば、あなた方は作物を育てずとも生きていけるはず。厳しい冬に見舞われながら、なぜそうまでして畑を耕し続けるのです?」

村長が、なんだそんなことかとばかりに微笑む。

「我々は代々、そうやって生きてきました。この原石が発掘されたのは数年前ですが、だからといって、我らの生き方は変わりません」

それを聞いた男は満足げに頷き、手を差し出す。

「ぜひ握手を。ここに来られて本当に良かった」

決して豪勢とは言えぬ部屋の中。ランタンの明かりの元で、手と手がつながれた。

出立の朝。雪は止み、晴れ間が見えていた。

「私からも一つ、尋ねてもよろしいでしょうか?」

男を見送るべく、出口には村人達が集まっている。その中から、村長が言った。

男が首肯する。

「そのカバンの中には何が入っているのでしょうか? この数日間、ついぞ一度も開きませんでしたね」

村長の、そして村人達の視線は、男の肩に掛けられたあのカバンに注がれている。

「あぁ、これはですね——」

男がおもむろにカバンを手にし、開いて中身を村人たちに見えるようにした。

中には何もなかった。カバンの底が見えるだけ。ほんとうに空っぽだった。

唖然とする村人たちを余所に、男はカバンを閉めてしまう。

「“空っぽ“を持っていることに意味があるのです」

その意味を理解した人間が、はたしてこの場にどれだけいただろう。

果たして村長が柔らかに笑んでいた。

「またお会いできるのが楽しみです」

「俺もです。それでは、また」

男が背をむけて立ち去る。雪上に残った男の足跡から、新たな緑が小さく芽吹いていた。

【完・63分で1769文字】

あとがき

「金持ち」というお題で真っ先に浮かんだのが、アニメ『精霊の守り人』の主人公・バルサの台詞でした。

金を持っていると何処に行っても同じ生き方をしてしまう。けど、金がなければその場にあった生き方ができる。それはそれで悪くない。

アニメ『精霊の守り人』より(台詞からの字起こしです)

このアニメを初めて観たのはもう何年も前ですが、第一話のこの台詞はとても印象に残っています。
良い言葉だと思います。

(アニメ『精霊の守り人』は2019/04/19現在、「Amazonプライム」で全話視聴可能ですので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。)

そんな概念から書いた今回の三題噺。

書き出すまでに10分以上かかった上、書くのが難しかったです。
読み返してみると突っ込みどころはありますが、僕的にはある程度満足の出来です。

そして「空っぽの鞄」という考え方は、BUMP OF CHICKENの歌詞に何度も登場するのですが・・・。

三題噺を書き出して一週間。
話を考える起点となるのは、やはりこれまで触れてきた作品が多くて、いろんな作品に触れ続けることの大切さが改めて身に沁みます。

みなさんも、大好きな作品から着想を得ることも意識してみてくださいね。

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生きてる内にあとどれだけ書けるだろう
同じ執筆量で、より巧く。

無思考で書くのは、ほんとうに勿体ない。
たった少しの意識で、あなたの小説はもっと良くなります。




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