もしあなたが突然、3億円を手に入れたらどうしますか?
すぐさま今欲しいものを思い浮かべる人もいるでしょうし、大金を元手に何か始めてみようと考える人もいると思います。
もしかしたら、堅実に貯金して人生設計しようという人もいるかもしれませんが、大抵の人は舞い上がって、気が大きくなってしまうのではないでしょうか?
今回ご紹介する小説『億男』は、弟の肩代わりとして借金を抱えた”一男”が主人公。
一男が借金を抱えたことが発端となり、妻は娘を連れて出て行ってしまいます。
そのまま1年半もの別居状態にあり、一男は家族との幸せを取り戻すべく必死に働く日々。
そんなある日、転機が訪れます。
なんと宝くじで3億円が当選。借金を返しても余りある大金を一瞬にして手にしました。
しかしここで有頂天にならない一男は堅実です。
大金を手にしたことで、「お金とはなにか?」「お金と幸せの答えとは?」といったことを熟考します。
しかしいくら考えても答えの出ない一男は、事業で大成功を収めて大金持ちになっている大学時代の親友・九十九を尋ねることに。
ところが信頼していた親友は一男の3億円と共に失踪してしまい……
はたして一男は親友・九十九を見つけ出し、3億円を取り返すことができるのか?
そもそも大金持ちのはずの九十九はなぜ一男から3億円を盗んだのか。その真意とは?
そして「お金と幸せの答え」を解き明かすことはできるのか?
『億男』は単行本の他に、お求めやすい文庫版も発売されています。
さらに、2018年10月19日には映画が公開予定となっていますので、映画を観る前に予習しておくのもいいかもしれません。
ということで今回は、原作小説のあらすじと感想に加え、映画に関する情報もまとめてご紹介しようと思います。
『億男』の登場人物とあらすじ & 映画版のキャスト
まずは『億男』の登場人物とあらすじをご紹介します。
合わせて映画版のキャストも見ていこうと思います。
(※登場人物とあらすじは原作を読んでのものです。映画版とは異なる可能性がありますのでご了承下さい)
主人公「一男」役は”佐藤健さん”
画像は”映画『億男』公式サイト”より
主人公となる一男は真面目で筋の通った人物です。
失踪した弟の借金3千万円を抱えながらも、腐ることなく真面目に働き続けています。
昼は図書館司書として、夜はパン工場の流れ作業に準じる毎日です。
月収は合わせて40万弱。
妻と娘と自分の生活費を除いた20万を借金返済に充てるのですが、完済予定はなんと30年以上先とのこと。
しかも借金を抱えたことにより、妻との間にあった価値観の相違が露呈してしまうという追い打ちが。
妻は娘を連れて家を出てしまい、1年半を超える別居中にあります。
一男の娘は作中で9歳の誕生日を迎えていますので、離ればなれになってしまったのは娘が7歳の頃ということになります。
可愛い年頃でしょうに、人生は残酷です。それでも誠実でひたむきな一男の姿勢は素晴らしいですね。
さて、そんな一男に人生を左右する出来事が起こります。
なんと福引きでもらった宝くじで3億円を当選。一瞬にして、借金を返済しても有り余る大金を手にしました。
ここで舞い上がってしまわないのが一男の良いところ。
まっさきにお金を使ったのが牛丼屋での”豪華メニュー”といった具合で、豪遊することなく、冷静にお金の使い方を見極めようとします。
悲願だった家族を取り戻す資金を得たというのに、安易に飛びついて妻に連絡するようなこともありませんでした。
お金とは何なのか?
お金と幸せの答えとは?
いくら考えてもわからない一男が頼ることにしたのが大学時代の親友・九十九でしたが……。
一男役を演じられるのは佐藤健さんです。
最近ですとNHKの朝ドラ『半分、青い』に”萩尾律”役で主演されていましたね。
原作『億男』を読んだ感じではぴったりの配役ではないかと思います。
佐藤さんの演じる一男が今から楽しみです。
一男の親友「九十九」役は”高橋一生さん”
画像は”映画『億男』公式サイト”より
九十九は一男の大学時代の親友で、同じ”落語研究会”のメンバーでした。
一男にとっては無二の親友です。
そして九十九は少々”変わった人物”です。
一男と九十九の出会いは大学の落語研究会。
九十九が朗々と「寿限無」を披露している場に一男が居合わせたのでした。
笑い声が次第に高まり、教室をふるわす。
くせ毛の男はその波を受け、流しつつ、まるで歌うかのように演じきった。オチまでたどり着き、男が深々と頭を下げると、教室にいた先輩たちから割れんばかりの拍手と喝采が送られた。一男も、周りの新入生たちも思わず手を叩いた。
ステージから降りた男は、あっという間に猫背でうつむきがちな姿に戻り、すごいな! 即戦力だ! などと言いながら取り囲んでくる和服の男たちに、ほとんど聞こえない声でぼそぼそと返事をしていた。『億男』より(43ページ)
噺家としての堂々とした姿と、猫背でうつむきがちでぼそぼそと話す姿。
このときの一男の言葉を借りるのであれば”二重人格者”です。
一男と九十九。数字の1と99という関した名前にちなんで、大学時代は二人で100%なんて言われたんだそう。
二人はそれほど親友でした。
そんな九十九は大学卒業後、SNS系のネットベンチャーを立ち上げ大成功を収めています。
しかし大学卒業後の一男と九十九は疎遠になっており、15年もの間、顔を合わせていませんでした。
というのも、二人が大学卒業間近に旅したモロッコで、とある事件が起こったのです。
その事件により、九十九は「お金と幸せの答えを見つけてくるよ」という言葉を残しており、それから再会していないのでした。
大金を手に入れた一男が、疎遠になっていたとはいえ親友であり、大金持ちであり、さらには「お金と幸せの答え」を追っていった九十九を頼るのは当然の成り行きと言えます。
こうして再会することになった一男と九十九。
時間の経過に反して九十九の姿は昔のままで、一男は不思議な感覚に襲われます。
そんな中、一男の事情を知った九十九は「お金」に関するレクチャーを開始。
(ちなみに現在の九十九の資産は「今この時間だと、157億6752万9468円」とのことです)
君はお金が好きかい?
お金持ちになりたかった?
という問いに始まり、
お金が好きなら一万円札の大きさや重さを知っている?
という奇怪な問題へ移行。
こういうことを知ろうとしない人は、実は「お金」が好きなわけではないという持論を展開します。
これ以降も、『億男』では「お金とは?」「幸せとは?」という問題を問い続けていきます。
一男の行く末や、一男と九十九の関係など、物語的にも面白い『億男』ですが、このお金に対する考察も間違いなく見所のひとつです。
「ひとつだけ、分かったことがあるんだ。人間には自分の意志ではコントロールできないことが、みっつある」
「なんだよ?」
「死ぬことと、恋することと、あとお金だ。でも……お金だけが違うんだ」
「どういう意味だ?」
「お金だけはとにかく違う……その理由はこんど話すよ」『億男』より(70ページ)
一男と九十九が再会した際の会話です。
この答えについては終盤で明かされることになります。自身でも「お金」について考察しながらより進めると、この作品はより魅力的になるはずです。
このあと、九十九は一男の3億円を持ったまま失踪してしまい、一男の「お金」を解き明かすための物語が始まることになります。
その行く末をぜひ楽しんでいただけたらと思います。
さて、映画では九十九の役は高橋一生さんが務められるようです。
数々のドラマや映画に出演なさっている高橋さんですが、今回はクセの強い九十九をどのように演出するのでしょうか。
佐藤健さんとの初共演にも注目です。
物語を彩る「お金」に人生を狂わされた人々
『億男』は親友・九十九に大金を持ち去られた一男が、九十九の行方を追うために、九十九のかつての仲間を訪ねていくという形で物語が展開されます。
一男が訪ねていく人たちは皆、「お金に人生を狂わされた人々」ばかり。
そんな人の話を聞いたり、様々な体験を経て一男は「お金と幸せ」について考えていくのです。
画像は”映画『億男』公式サイト”より
一男の妻・万左子役は黒木華さん。
九十九と共に事業を大きくしていたかつての仲間三人。
十和子役には沢尻エリカさん、
千住役には藤原竜也さん、
百瀬役には北村一輝さんが配役されるようです。
お気づきかと思いますが『億男』の主要登場人物の名前にはそれぞれ数字が当てられています。
そんな中、画像の1番右、「あきら」という人物にはそれがありません。
実は原作『億男』に「あきら」という人物は登場しないのです。
おそらく映画オリジナルの登場人物なのでしょう。
あきら役を演じるのは池田エライザさん。
あきらがどのように物語に関与してくるのかは気になるところ。
原作ファンも楽しめるひとつの要素になりそうです。
いやー、そうそうたる顔ぶれがそろいましたね。
公開が待ちきれません!
『億男』の主題歌はBUMP OF CHICKENの「話がしたいよ」!
実は僕が『億男』を読んでみようと思ったのは、文庫版が発売されたからでも、映画公開が迫っているからでもありません。
ひとえにBUMP OF CHICKENが主題歌を担当するということを知ったからです。
BUMP OF CHICKENの曲は聴けば聴くほど解釈が深まったり、変化していくのが特徴。
今回の主題歌「話がしたいよ」は、作詞作曲の藤原基央さんが映画『億男』のために書き下ろした曲ですので、『億男』のどんな面を歌っているのかにも着目して聴いてみてください。
相変わらずの良い曲、綺麗な歌声ですねぇ。”他人同士 元気でいるから”なんていう歌詞はすごく、らしいなと思います。
繰り返し聴いていると「この歌詞はあの場面のことを歌っているんだ!」という発見を楽しむことができるはずです。
そして、自分一人では発見できなかった映画『億男』の捉え方をそっと示してくれるはずです。
映画版『億男』と併せて、BUMP OF CHICKENの新曲にも注目です。
文庫版『億男』を読んでの感想
今回僕が読んだのは文庫版の『億男』。
巻末には高橋一生さんの解説も載せられていて、とても興味深いのでそちらもぜひ楽しみにしてください。
さて、『億男』の感想ですが、率直に言うと面白かったです。というか感慨深かった。
一男の行く末や、九十九の思惑など先が気になる展開が続き、物語としてももちろん面白かったのですが、やはり「お金と幸せ」への追求が最も印象的でした。
テーマがはっきりしていて、読者自身が考えながら読むことでより深みを増す作品だと思います。
生きていれば大抵の人は「お金」に悩むものです。
もっとお金があったらあれが欲しい、これがしたいという欲求は誰にでもあるものです。
でも大金を手に入れられる人は限られている。
だから大金を手にした後の生活は多くの人にとって夢物語でしかありません。
一男は宝くじを当てることで突如として”億男”になりました。
借金を抱えて、家族を失いかけていた一男にとっては僥倖です。
でも一男は有頂天になることなく「お金で幸せになれるか」を考えます。
こういう思考回路になったのはやはり親友である九十九の存在が大きかったはずです。
そんな九十九に大金を持ち去られた後でも、一男はお金を取り戻すという姿勢は保ちながら、でもそれ以上に「お金と幸せの答え」を探し続けます。
無思考で単に「お金が欲しい」とか「お金があれば幸せになれる」とか思ってしまいがちな人にぜひ読んで欲しいと思いました。
『億男』は一男が、お金に人生を狂わされた人たちに出会うことで展開されていきます。
一読者として、あるいは一男の視点を借りながら読み進めることで、僕たちのお金に対する意識が変化します。
僕たちはどうしてお金が欲しいのか、そもそもお金そのものが好きなのか、お金で人生をどうしたいのか。
一男はラストで、ひとつの答えを見つけたように思えます。
偏見なく読み進めて欲しい作品なので多くは語りませんが、僕自身はすごく学びを得られました。
ストーリー展開も早く、文体も読みやすく、主人公である一男にも感情移入しやすいので、多くの方が楽しめる作品です。
おわりに
僕自身、最近はお金に関して考えることが多くなっていたので『億男』は、かなり興味を持って読むことができました。
本書で度々引用されるチャップリンの言葉が真理に近いかなと感じます。
”人生に必要なもの。それは勇気と想像力と、ほんの少しのお金さ”
生きる上では必須の”お金”。
その付き合い方について、もっとちゃんと考えねばと思います。
映画に関しては、当初は映画館まで行って見る気はなかったのですが、原作を読んで、この記事を書いているうちに早く観てみたくなってしまいました。
時間を見つけて観てこようと思います。
みなさんも映画を観る前でも後でも良いので、ぜひ原作の方も読んでみてください。
それではここまで読んでいただき、ありがとうございました!