『処刑少女の生きる道』のあらすじ
本作は『GA文庫大賞』の〈大賞〉受賞作です。
この新人賞で大賞が選出されるのは、なんと7年ぶりのこと。
前回の大賞受賞作は7年間で15巻を刊行している『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』。
果たして先代に続いて本作も人気作になれるでしょうか? 久々の大賞に期待を寄せざるを得ませんね。
本作の内容を簡潔にまとめると・・・
異世界転移者を殺すのを使命とする少女が、不思議なくらい自分に懐く転移者の少女を殺すべく苦心する物語です。
舞台は魔導の存在するファンタジー世界。
日本からの異世界転移者が年に数人訪れるのですが、その大半が強大な能力を有しているんだそう。
そんな転移者(通称・迷い人)たちは、無自覚に世界を危険に晒してしまう存在でして、過去の迷い人がもたらした爪痕は今も大きく残っている模様です。
というわけで、そんな迷い人を始末することを使命としているのが〈処刑人〉。
迷い人の善悪関係なしに問答無用で暗殺してしまいます。
処刑人・メノウは、この度転移してきた迷い人・アカリを殺さねばなりません。
当初は出会ってすぐに任務をまっとうしようとしたメノウでしたが、迷い人たるアカリの能力が邪魔して叶いませんでした。
しかし幸いなことにアカリはメノウの目的に気付いておらず、何故か超フレンドリーに接してきます。
変に刺激して能力が暴走しては敵わないと、メノウはひとまず愛想よく接することに決めました。
どうしたものかと悩むメノウでしたが、組織の重鎮である大司教から助け船を得ます。
曰く、大司教のいる古都・ガルムには迷い人を葬り去るための儀式場があるとのことです。
自らの任務を隠しながら、アカリと旅立つメノウ。
時間を共にする中でメノウの心は本人も気付かぬまま移ろっていきます。
メノウはアカリを始末して、任務をまっとうできるのでしょうか?
そしてメノウに全幅の愛情を寄せるアカリの運命は?
ラストまで計算し尽くされた物語です。
ぜひご一読いただければと思います。
2019/08/24現在『処刑少女の生きる道』は、アマゾンの『kindleunlimited』に登録されています。
過去に利用していない人は無料体験で読むことができますので、これを機にぜひKindleを試してみてください。
【追記(2019/09/01):現在はKindle Unlimitedに登録されていないようです。今後また無料で読めるようになるかは不明ですので、ご注意ください。】
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『処刑少女の生きる道』のおすすめポイント
個人的に良かったと思うのは以下の3点です。
[aside type=”boader”]- 主要キャラは少女たちのみ。
- キャラ造形が魅力的。個性が立っていて、それがぶつかり合うと更に映えます。
- ストーリー構成が秀逸。計算し尽くされた印象でした。
主要キャラに男性がいないので恋愛要素は皆無。
その代わり少女たちの和気あいあい(?)としたやり取りを楽しめます。
キャラに関してはメノウと、メノウの補佐に付いているモモという少女が過去の姿も描かれるので深みを増していて気に入りました。この二人の関係は、お互いが絶対的に信頼しあっているのですが、僕には絶妙にいびつなものにも見えます。
序盤は多く語られない迷い人のアカリに関しても、終盤で怒濤の展開が待っているのでお楽しみに!
もちろんキャラだけでなく、ストーリーも秀逸です。
伏線も見事で、読み終わった後で「そう来るか・・・!」と思わされるはずですので、ぜひ細部まで注意を払ってみてください。
※これ以降はネタバレを含む感想や、小説の書き手視点での分析となりますので、ぜひ読了された方のみお読みいただければと思います。
視点変更とシーン切り替えが参考になる小説です
この記事のタイトルにも書きましたが、本作は視点変更とシーン切り替えが見事だと感じました。
視点変更とシーン切り替えは多用しないほうが無難ですが・・・
キャラの視点変更は上手く書かないと読者が混乱してしまいますし、シーンの切り替えも多用しすぎると読者が着いてこれなくなってしまう恐れがあります。
ですので、よほど自身がある場合を除いてシンプルに書くのが定石です。
かくいう僕も、視点に関しては基本的に主人公一人に絞るようにしています。
『処刑少女の生きる道』は一貫して一人称寄りの三人称で描かれますが、視点はコロコロ変更されています。
シーンに関しても数ページで切り替わる部分が少なくありません。
しかしながら、視点もシーンも意図を持って切り替えられているために、読みにくくなっていないのが素晴らしいです。
必要ならモブキャラの視点も利用する
文庫本128ページあたりのシーンです。
ここはモブキャラのテロリストたちの視点で書かれています。
(一応三人称ではありますが、”モモ” を ”少女” と書いていることからも視点の所在はテロリストと言えるでしょう。)
普通に考えればこのシーンもモモの視点で書けば事足りるように思えますが、そこをあえてテロリストたちの視点で書くことで、ある効果が生まれています。
それがモモの恐ろしさを描写することです。
「これから一秒ごとに、少しずつ首を挽いていきます」
「——ヒィっ」
耳から冷気が入ってきたかのようだった。
相手の声の冷たさは、冷静さによるものではない。ささやきが冷え切っているのは、背後の少女が男の命に無関心だからだ。
「あなたが素直になるか、あなたの首が床に落ちるかぁ」
甘さなどまるでない声色が、耳へと吹きすさぶ。『処刑少女の生きる道』132ページより
上記のような描写はモモ視点ではなく、まさに今、命の危機に瀕しているモブキャラの視点でこそ活きます。
本作はこういった視点切り替えが多く、どれも効果的に作用していますので、その辺りに注視しながら読むととても勉強になりますよ!
視点切り替えの表現を学ぶ
視点を切り替えた際には、どのようにして視点の保有者を示すかが重要ですよね。
本作は視点切り替えが頻繁に行われていますので、その表現方法も参考にすることができます。
時任明里は、案内された部屋でぼんやりと頬杖をついていた。
『処刑少女の生きる道』58ページより
上記のように分かりやすく書く場合もあれば・・・
思いっきり、至近距離で目が合った。
「……」
思わぬ事態に、対面の少女はもちろん、バルコニーの欄干に着地したメノウですら一瞬だけ固まってしまった。『処刑少女の生きる道』62ページより
といった具合に、目が合うという印象的な描写で切り替えている場合もあります。
ちなみに上の二つの視点切り替えは、同一のシーン内で行われています。
[aside type=”boader”]アカリがバルコニーへ出る(アカリ視点)⇒アカリと、欄干に着地したメノウの目が合う(メノウ視点)
[/aside]これがごく自然に切り替えられていて、これなら読者も着いてきやすいのではないでしょうか。
シーンや視点の切り替えに着目しながら読んでみてください
僕は小説を読むときは勉強も兼ねて分析的に読むのですが、本作をシーンや視点切り替えに着目しながらまとめていったところ、以下のようになりました。
右側、紫色の部分がプロットレベルに分解したものですが、1冊の中でこれだけの内容が描かれています。(あえて解像度を下げて細部は見えないようにしています)
その上で、緻密に練られた作品ですのでさすがは大賞受賞作と唸らされます。
シーンと視点の切り替えが、作品全体を通してどう作用しているかに着目するととても勉強になリます。
小説の書き手として見習いたい点
他にも勉強になった部分をいくつか挙げていきますね。
序盤に世界観を語ることで読者の興味を引く
「—西方大陸を海に溶かした『塩の剣』。南端諸島を食い尽くした『霧魔殿(パンデモニウム)』。東部未開拓領域を支配する『絡繰り世(からくりよ)』。北大陸中央部をくり抜いて浮かべる『星骸(せいがい)』」
並び立てた名称は、この世界で起こった伝説的な災害の数々だ。『処刑少女の生きる道』25ページより
メノウが、過去の迷い人達が引き起こした災害を語るこのシーン。
見せるのではなく語ることを良しとしない意見もあるかもしれませんが、僕的にはこのシーンに惹かれました。
『塩の剣』とか『絡繰り世』とか、固有名詞もカッコ良くて詳細が知りたくなってしまいませんか?
もちろん説明調の世界観語りが増えすぎてはいけませんが、この程度ならバランスが取れていて効果的と思います。
矛盾する感情を表現した一文
同行者として、アカリの信頼を得るため当然の行動だ。ただアカリをかばうのは、不思議なくらいいまのメノウがやりたいという心情とも反することがなかった。
『処刑少女の生きる道』124ページより
建前だけでアカリと仲良くしているはずのメノウが、自身の心情に矛盾を抱いた描写です。
ちょっと回りくどい言い回しにしてある点や、”かばう” や ”いま” を平仮名にしていることがこの描写を魅力的にしていると感じました。
モモの過去話はぜひ読んで欲しいです
主要キャラの一人モモが、メノウと出会った過去を回想するシーンが文庫本133ページから10ページに渡って書かれているのですが、僕はこのシーンが好きになりました。
良い意味で不安定にぶっ飛んでいます。(笑)
だから、モモはよく泣いた。
泣ける心があるなら、まだ自分は大丈夫だと思える気がした。
〈中略〉
よく泣くモモを弱者と見てニタニタと笑った同期に周りを囲まれたこともあった。泣くのを邪魔されたくなかったモモは相手の顔面を殴りつけて返り討ちにし、全員泣けなくなるくらいに痛めつけて追い詰めた。
以降、周囲は泣いているモモには不用意には近づかなくなった。
モモは思う存分一人で泣けた。
きちんと、嫌なことに泣ける。それが唯一のよりどころだった。『処刑少女の生きる道』134ページ〜より
嫌なことがあったら泣くのが普通。
それをメタ的に認識しているモモは普通じゃない。
モモの人間性を語るには印象的な回想となっています。
この後で、泣いているモモにメノウが近づくわけですが、その二人の関係性も美談に見えてどこかいびつで良い味を出しています。
回想は読者に敬遠される場合も多いですが、この回想はかなり巧いと僕は感じました。
しかしながら、ネットの感想を見ているとモモの性格に難を示す人も割といた感じなので好みは分かれるのかもしれません。
おわりに
『処刑少女の生きる道』。7年ぶりの大賞に恥じない作品だったなという感想です。
ネットの評判を見ていると完成度が高いといったものが多かったです。
それは同意なのですが、個人的にはこの1冊で上手く完結させているというより、2巻以降を読みたくした上で綺麗に収めているといった印象を持ちました。
2巻の発売も決まっているようなので、発売時には購入してみようと思います。
書き手視点としては、これくらい計算してシーンを書けないと受賞は難しいのかなと思わされました。
本作も参考にしつつ精進しようと思う次第です。
みさんもぜひ『処刑少女の生きる道』を読んでみてくださいね!
それでは最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。
2019/08/24現在『処刑少女の生きる道』は、アマゾンの『kindleunlimited』に登録されています。
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