『HELLO WORLD』のあらすじ
ジャンルは青春恋愛SFとのこと。
青春して恋愛して、しかもSFしている贅沢な一作となっております。
主人公は堅書直実(かたがき なおみ)。
女の子のような名前ですが男子高校生です。
京都に住む直実はとても内気な性格。
そんな自分を変えたいと願いながらも上手くいかず、窮屈な日々を過ごしていました。
そんなある日、不思議な出来事が起きました。
図書館で借りた本を持ち街中を歩いていると、なんと脚が3本あるカラスに本をかすめ取られてしまったのです。
カラスを追いかけた果てに行き着いた神社。
そこに突如現れたのはフードを目深に被った怪しげな男で・・・
その男に付きまとわれた直実は、彼が10年後の自分であることを知ります。
しかも更なる衝撃の事実。直実が今生活しているこの世界はコンピューターに記録された過去の世界とのことです。
自分自身もコンピューターの記録の一部に過ぎないと知るも、当然ながら直実には実感が湧きません。
さらに10年後の自分がやって来た理由は「10年前に亡くなった彼女を救うため」だと言います。
まずは彼女を作るところから手を貸すという未来の自分に直実は従うことになって・・・
果たして直実は彼女を手に入れ、その少女を死の運命から救うことが出来るのでしょうか?
そしてその先に待ち受ける試練とは?
青春恋愛SFに偽りなしのボーイミーツガールな作品となっております。
(もちろんSF要素を活かした怒濤の展開も待ち受けていますのでお楽しみ!)
【ネタバレなし】小説&映画『HELLO WORLD』の感想
僕は映画を観た後で、小説を読みました。
映画はCGを駆使した迫力満点の出来でした。
音楽も良くて一見の価値ありと思います。
個人的には映像の動きに時々違和感があったので、そこがちょっと残念かなといった印象。
それから、僕の理解力では一度の視聴で把握しきれない部分も少々。
それから、正直な感想として前半部分はかなり退屈でした。
ネタバレは避けますが、前半は恋愛要素主体のお話となっています。
あまりひねりのない展開が続きますし、キャラに今いち感情移入できなかったんですよね・・・。
怒濤の巻き返しが始まったのは中盤以降。
どんでん返しがあることは予想しながら観ていましたが、映像の迫力と相まって想像以上でした。
この辺りからSF要素が強まってきますので、ぜひ中盤〜終盤の展開は楽しみにしていただければと思います。
で、映画の鑑賞後に小説も読みました。
映画も良かったのですが、個人的には小説の方が面白かったです。
理由はおそらく小説の方がキャラの心理を表現できているからかと。
(そこが小説という媒体の強みなので当然ではありますが。)
映画の場合、心理描写に関しては視聴者の感性に依存する割合が増えますからね。
小説ならある程度は文章での誘導があるのでイイ感じでした。
映画では感情移入できなかった前半部分も小説でなら楽しむことができました。
直実に限定せず、彼女側からの視点で語る描写もあるので映画を観た後で読むと上手いこと補完してくれます。
映画では迫力ある映像と、エモーショナルな音楽や声優さんの演技を。
そして、小説では映画で省略されていた心理描写を。
両者とも楽しんで頂ければ幸いです!
【ネタバレあり】小説『HELLO WORLD』から学ぶこと
ここからは小説の書き手として、僕が『HELLO WORLD』から学んだことを書いていこうと思います。
ネタバレ満載ですので、くれぐれもお気を付け下さい!
主人公・直実が抱えた問題の描き方
ストーリーの序盤で主人公が抱えている問題や欲求を明らかにするのは重要です。
それを知ってもらい、ストーリーを通して解決していくことが読者の興味を引きます。
『HELLO WORLD』の主人公・直実が抱えた問題は「内気、行動できない」といった要素。
で、この問題を端的に描くべく、直実が『決断力—明日から使える! 実践トレーニング』なる自己啓発本を購入するというシーンが登場しました。
その時レジの人は、僕をどう思うだろうか。僕と本を見比べて、小さく笑われてしまうだろうか。そんなことを考えると、足が竦んでしまう。恥ずかしさが渦巻いて、コーナーからすぐに立ち去りたくなる。
『HELLO WORLD』16ページより
僕も自己啓発本の類いはよく読んでいるので、このシーンの気持ちはとても分かります。笑
内向型の性格に悩んでいるような人には特に共感されるのではと思います。
そして上記のシーンの直後には、この自己啓発本の内容を実践するシーンが描かれました。
書き方としては「本の文句を【】で引用⇒直実が試みるも上手くいかない」といったシーンを複数回繰り返すというものです。
【迷ったら直感を信じよう!】
簡単に書かれている。眉根を寄せて、溜息を吐いた。言われてできるならば苦労はないと思う。『HELLO WORLD』23ページより
端的にわかりやすく描くには適した表現なのかなと思います。
設定の解説方法
基本的に作中で設定をダラダラ書くのは推奨されません。
ただし、上手いこと読者の興味を引きつつ語るならアリです。
『HELLO WORLD』には「コンピューターに過去の京都が記録されている」という設定があるのですが、これを見学ツアーを介して語っています。
ツアーのガイドさんが語り、合間合間に直実の視点や感想を挟む形で6ページくらい割かれていました。
以下はその一部分です。
「しかしPluura社のもつ量子コンピュータ事業の進歩、そして京斗大学が完成させた新理論が、それを可能としました。今皆さんがご覧になっておりますのは、その技術革新の集大成です。これこそが無限の記述を可能にするレコーダー」
ガイドの手が、ガラスの向こうを指し示す。
「量子記憶装置『アルタラ』です」
なるほど、あれはアルタラと読むんだ。『HELLO WORLD』56ページより
学園ファンタジーなどでは授業の質疑応答で世界観を語るような手法もよく見られますが、今回のようなツアーを使った語りも有効そうですね。
視点切り替えへの配慮
『HELLO WORLD』は基本的に直実の視点で語られますが、必要とあらば彼女(瑠璃)の視点や、10年後の直実の視点も多用しています。
特に中盤以降は直実と10年後の直実の視点が頻繁に入れ替わったり、ときには二人の視点が混ざったような描写も見られました。
これ、かなり気を使わないと読者を混乱させてしまうはずですが、『HELLO WORLD』は比較的判りやすく書かれている印象でした。
主人公を「直実」、10年後の直実を「ナオミ」と書くといった分かりやすい配慮はもちろん、視点が切り替わった時には視点主や状況、場所などを早々に明かすといった書き方が成されています。
視点切り替えは多用しないのが無難ですが、上手くすれば表現できる幅も広がるはずです。
『HELLO WORLD』を読む際には、その辺りも学ぶつもりで読んで頂ければと思います。
おわりに
今回は『HELLO WORLD』の小説と映画の感想を書きましたが、SFとしては割とライトに読める(観られる)作品だと思いました。
カタルシスもまずまずで、小説も映画も併せて楽しむ価値があると思います。
ただ、僕の読解力不足のせいか ”エピローグ(映画ではラストシーン)” だけは辻褄を合わせられなかったので、また読み返しつつ理解を深めたいと思います!