【名言の宝庫】『クビキリサイクル』のネタバレ有り無し感想

『物語シリーズ』で有名な西尾維新先生の原点とも呼べる『戯言シリーズ』。
その第一弾である『クビキリサイクル』の紹介&感想を書いていこうと思います。

まずは、ネタバレ無しで作品紹介と感想を。
次いで、ネタバレ有りの感想を。(こちらは、小説書き視点での感想多めです)
——といった構成でお届けしますので、『クビキリサイクル』を未読の方はご注意ください!

また、末尾には『クビキリサイクル』の名言(迷言?)もコメントを添えて載せていきますので、ご覧いただけたら嬉しいです。

目次

『クビキリサイクル』をネタバレ無しの感想と共にご紹介!

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)

『クビキリサイクル』の作者は言わずと知れた西尾維新先生です。
『化物語』『刀語』『掟上今日子の備忘録』を端とするシリーズものを多く輩出していますよね。

そんな西尾維新先生の原点——デビュー作となる『クビキリサイクル』。

正式タイトルは、サブタイトルを添えて『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』となっております。

『クビキリサイクル』の語り部は、戯言遣いこと”いーちゃん”

アニメ「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」解体新書 (講談社BOX)

主人公は戯言遣ざれごとつかいこと”いーちゃん”。
彼の一人称視点による文体が、まず一つ、この作品の大きな特徴です。

戯言ざれごとだよな」が決め台詞のいーちゃんは、通り名(?)にたがわず”戯言ざれごと”を駆使します。

ぼくには、無自覚で無意識で他人を踏みつけていく人間の方が、善意で正義で他人を踏み砕いていく人間の方が、ずっと怖いように思えるけど。

『クビキリサイクル』より

”無自覚で無意識”、”善意で正義で”……。
ともすれば回りくどく思えてしまいそうな、いーちゃんの独白による文体。

世界は優秀に厳しい。世界は有能に厳しい。
世界は綺麗に厳しい。世界は機微に厳しい。
世界は劣悪に優しい。世界は無能に優しい。
世界は汚濁に優しい。世界は愚鈍に優しい。
けれどそれは、それをそうと理解してしまえば、そうと知ってしまえば、その時点で既に終わってしまっている、解決も解釈もない種類の問題だ。始まる前に終わっていて、終わる頃には完成している、そんな種類の物語なのだろうと思う。

『クビキリサイクル』より

こういった文体がずっと続きます。

この、いわゆる”言葉遊び”が好きと思える人は、『クビキリサイクル』を間違いなく楽しめるはずです。

逆に「読み辛いな……」と感じる人にはちょっとオススメしにくいのですが、読んでいるうちにハマる人も多数なので、”騙されたと諦めて”(←この表現も西尾作品だったはずですが)一度は読み始めてもらえたら幸いです。

『クビキリサイクル』のジャンルは本格ミステリ……?

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い 1~8 全巻セット(完全生産限定版) [Blu-ray]

『クビキリサイクル』のジャンルは”本格ミステリ”です。
……僕は本格ミステリの定義を今ひとつ分かっていなかったので、ウィキペディアを覗いてみました。

推理小説のジャンルの一つ。推理小説のうち、謎解き、トリック、頭脳派名探偵の活躍などを主眼とするものである

Wikipedia「本格派推理小説」より

とのことで、要は難問を前に、探偵が活躍する正統派推理小説といった感じのようですね。

なるほど。たしかに『クビキリサイクル』は本格ミステリと呼ぶに申し分ない出来だと、僕は・・感じました。

あえて「僕は」と書いたのは、ネット上の評価を見ていると「無理矢理感がある」みたいな感想もちらほらあるんですよね……。

僕のように、普段あまりミステリ小説を読んでいない人種には感嘆する内容でも、生粋のミステリファンには物足りないと感じる場合もあるようですね。

ちなみに僕にとって『クビキリサイクル』含む『戯れ言シリーズ』は、これまで読んだすべての小説の中で、五本の指に入る想い入れ深い作品です。

しかし改めて考えてみると、僕は『クビキリサイクル』の独特な文体や、キャラ造形に強く惹かれていて、ミステリとしての出来はそこまで重視していなかったと今さらになって分かりました。

ですので、「本格ミステリを読みたい!」という人より、「本格ミステリもいいけど、エンタメ作品としても楽しみたい!」といった人の方が、より楽しめる作品だと評しておきます。

舞台は「絶海の孤島」にある「高貴な館」……!

物語の舞台は”からす羽島ばじま”という孤島にある館です。
(古き良きミステリって感じがしませんか……?)

さて。戯言遣ざれごとつかいこといーちゃんは、友人の玖渚友くなぎさとものお供として、この孤島にある館を訪れています。

実はこの孤島と館の主は、とある財団のご令嬢なのですが、彼女は本家から”島流し”されているとのこと。
専属のメイド(三つ子メイド含めて四人います)と共にここで暮らすご令嬢は、とある暇つぶしを行っているようです……。

孤島に住まうご令嬢の暇つぶしは「あらゆる天才を招く」こと!

世間から隔離されたご令嬢は「それなら面白い人々をこちらから招こう」という発想に至ったらしく、あらゆる道の”天才”をゲストとして集めています。

以下は作中から引用。”イリアさん”は、ご令嬢の名前です。

島からの外出を禁じられたイリアさんは、《それならば》と世界の著名人を島に招くことにしたのである。著名人という表現が少しばかりずれているのならばこう言い換えてもいいだろう——イリアさんは屋敷にいわゆる《天才》を招くことにした、と。こっちが出られないのだったら向こうから来てもらえという、非常に分かりやすい公式である。

『クビキリサイクル』より

『クビキリサイクル』の冒頭時点で”からす羽島ばじま”には、5人の天才が招かれていました。

  1. 天才画家・伊吹かなみ
  2. 天才料理人・佐代野弥生
  3. 天才学者・園山赤音
  4. 天才占い師・姫菜真姫
  5. 天才技術者・玖渚友

ちなみに主人公のいーちゃんは、天才技術者である玖渚友の付き添い(本人曰く”オマケ”)です。

5人が5人とも、超個性的。
……というか、この天才たち以外の登場人物ももれなく個性的なので、これもまた西尾維新作品の真骨頂といった感じです。

そんなキャラたちを、戯言を駆使するいーちゃんの視点を通して見ることになるので、まさに面白さの相乗効果を生んでいます。

そして起きる”クビキリ事件”……

物語序盤はキャラや設定の紹介に終始します。

登場人物の紹介と言われると「退屈なパートなのでは……」思う人もいるかもですが、『クビキリサイクル』に限ってはそんな心配は不要です。

むしろこの紹介パート自体を作品の魅力と紹介しても問題ない面白さとなっております。

「——赤音さんにしたって弥生さんにしたって久渚ちゃんにしたってさぁ、俺達とジャンケンしても三回に一回しか勝てないんだぜ? 真姫さんは、そりゃ例外としてもさ」

『クビキリサイクル』より

これはいーちゃんと同じく「天才のオマケ」として訪れていた男性キャラが、いーちゃんに放った台詞です。

天才たちに囲まれた、(本人曰く)凡人である二人の会話。
言ってることは当たり前ですが、この独特な感性がクセになります。
(ちなみに、真姫さんが例外なのは、彼女が天才占い師だからです)

こんな感じで一通りの紹介を終えたところで、満を持して事件が発生……!

ネタバレ無しでどこまで書いて良いのか悩みどころですが、『クビキリサイクル』というタイトルから想像はつくと思うので、これは言及してしまって大丈夫でしょう。

なんと、天才の一人が「首無し死体」となって発見されます。
さらに、事件は密室で起きています……!

絶海の孤島にある館。しかも、多くの天才が集ったなかでの密室殺人事件。
凡人を自称するいーちゃんは、はたしてこの難問にどう挑んでいくのでしょうか?

キャラ小説として(僕的には本格ミステリとしも)、超おすすめしたい一冊です。
気になった方は、ぜひぜひお手にとってみてくださいね!

小説書き視点『クビキリサイクル』のここを見習いたい……!(ネタバレ有りです)

※画像はイメージです

というわけで、ここからは僕個人が小説書きの視点で感じたことをネタバレ有りで語っていこうと思います。

小説を書かれる方の参考になれば幸いです。

また、小説は読むの専門といった方も、「小説を書く人はこんなふうに読むんだ……」みたいな感じで楽しんでもらえたら嬉しいです。

キャラ人数を増やすのを恐れていない……

僕は小説を書くとき、主要キャラは多くても4人か5人くらいに絞るようにしています。
それ以上だと、全員にスポットを当てられませんし、何より読者を混乱させてしまいます。

ところが『クビキリサイクル』は天才だけで5人。
主人公含めた合計で13人ものキャラが登場しております。
(他にも名前だけ登場したキャラも多数いますし……)

もちろん「本格ミステリ」というジャンルの特性上、キャラが少なくてはマズいというのもありますが、それにしたってスゴいなぁと感じました。

しかも全員が全員、ちゃんとキャラが起っていて、「あれ、このキャラ誰だっけ?」といったことがありませんでした。

僕もそうですが、小説を書いていると「このキャラ、どうも存在感ないな……」という事態はあるあるです。

『クビキリサイクル』冒頭では、いーちゃんが順番にキャラたち会っていきます。
このパートが、いわゆるキャラ紹介になっているわけですが、いーちゃんが「ほとんど全員に会ったよ。」と発言したのが、作品全体の15%くらい。

さらにその後も、西尾維新らしいキャラのやり取りが続き、クビキリ事件が起きたのが作品全体の30%くらいです。

3分の1ほどを使って丁寧にキャラを掘り下げているわけですね。

このキャラの掘り下げ、正直、西尾維新先生だから許されるエンタメ性で描かれていますが、小説を書く人の参考にもなると思うので、「キャラが弱い」のを課題に感じている人は、序盤のキャラの描き方に注目しながら読んでみるといいんじゃないかと思います。

ただ、繰り返しになりますが、西尾維新先生だから成り立っている感は否めないので、完全に真似することはおすすめしないです!

本格ミステリの要素。個人的にはスゴいと思う

ネタバレ無しの感想にて先述しましたが、ミステリファンの方にとってはトリックや謎解きに”無理矢理さ”を感じることもあるようです。

『クビキリサイクル』における、主要のトリックや謎は以下の通り。

  1. 一件目の殺人事件は、部屋の奥に首無し死体。その手前側に地震でこぼれたペンキの川が出来上がっている。ペンキの川は、人が飛び越えられる距離ではなく、死体発見時にまだ乾いていなかったことから、殺害時刻は地震が起こる前の時間帯となる。
    ⇒誰もが「地震によってペンキの缶が倒れた」と思い込んでいたが、はたしてそこに因果関係があったのだろうか? 実際は、殺害後に犯人がペンキを撒いて川にしていた。
  2. 二件目の殺人事件。またも首無し死体。高い位置に窓があるだけの密室で起きている。
    ⇒被害者と思われていた人物が実は犯人。共犯者の手を借り、一件目の首無し死体を”リサイクル”することで、自分の死を装った(警察がおらず検死できないため、一件目と二件目の死体が同一であることを誰も気付けなかった)。犯人自身は、死体を踏み台にして窓から脱出している。
  3. エピローグで”どんでん返し”。犯人と被害者は、物語が開始される前から入れ替わっていた(被害者は犯人に、ご令嬢に対するサプライズだと聞かされていた)。犯人の目的は、この先も被害者に成り代わり、人生を乗っ取ることだった。

未読の方には理解出来ない部分もあるかと思いますが、ご了承下さい。

鋭い方は①と②程度なら気付くのでしょうか?
僕はまったく気付いていなかった(というかそもそも推理しながら読んでいない)のですが、真相を知ったときは素直に驚きました。

真相を知った後に読んでみると、あらゆるところに伏線も張ってあり、本格ミステリとして十二分に成り立っていると感じます。

③に関しては「そんな発想、浮かぶはずないないだろ……」といった感じですが、西尾維新作品だと妙な納得感もあって、やっぱりこの作品とシリーズが好きだなと思った次第です。

謎やトリックももちろん秀逸ですが、個性的なキャラならではの”動機”も見事なので、そういうキャラありきの心理(?)を学んでみたい人にもおすすめしたいところです。

やはり注目すべきは戯言遣い・いーちゃんの一人称視点

世の中の大抵の作品は、合う合わないこそあるけど、三人称でも一人称でも書くことが可能です。

スポンサーリンク

しかし『クビキリサイクル』は、いーちゃんの一人称視点でなければ成り立ちません。絶対に。

これ、ほんとにスゴいことだなと昔から思っていて、まさに作品と文体が一致している最高の例ではないでしょうか?

自分の作風に合った文体、もしくは自分だけの文体を探っている人は、一つの例として『クビキリサイクル』をぜひ読んでみてください!

スポンサーリンク

さいごに『クビキリサイクル』の名言(迷言?)を紹介します!

『クビキリサイクル』は名言(迷言?)の宝庫です。

正直全部挙げだしたきりがないので、今回は思わず感心してしまったものを、僕なりのコメントを添えてご紹介します。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)①

「他人を自覚的に意識的に踏み台にできる人間ってのは、なかなかどうして怖いものがあるよな」
そうだろうか。
ぼくには、無自覚で無意識で他人を踏みつけていく人間の方が、善意で正義で他人を踏み砕いていく人間の方が、ずっと怖いように思えるけれど。

『クビキリサイクル』より

プロローグの冒頭も冒頭です。
この作品の色をさっそく垣間見せていますよね。

「自覚的」と「意識的」の対極が、「無自覚」と「無意識」というのは分かりやすいですが、「善意」と「正義」もまた同様とみなしているところが不快ですねぇ。
まあ、意図して他人を「踏み台」にしているのだから、それは「悪」だという解釈で良いのでしょうか……?

みなさんはどちらを”怖い”と感じますか?

僕はどっちもどっちだと思いますが、どちらかと言えば、いーちゃんに賛同かもです。
悪を自覚していない悪人はやっぱり恐ろしいな、と。

ちなみにこの後、いーちゃんは「さてはお前、いい奴だな?」と言われております。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)②

「人の生き方ってのは、要するに二種類しかない。自分の価値の低さを認識しながら生きていくか、世界の価値の低さを認識しながら生きていくのか。その二種類だ。自分の価値を世界に吸収されるか、世界の価値をぎとって自分のものへと変えるのか」

『クビキリサイクル』より

僕は圧倒的に前者ですね……。
というか、後者を自認できる人がはたしてどれだけいるのか疑問でさえありますが。

これ、内容もさることながら文章の構成も巧いと思うんですよね。

まず結論(ついでに二種類という数も示す)
⇒その”二種類”を具体的に述べる
⇒再度結論
⇒最後に言い換えて、別の視点を見せる

一言でガツンと衝撃を与える名言も良いですが、こういう秀逸な考えさせられる名言が個人的に大好きです。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)③

この屋敷にある部屋の中で一番狭い部屋を教えて欲しいとあかりさんに頼んだら、ここを紹介されたのである。一番狭い部屋。それでもぼくの下宿よりはずっと広いのだから、いやはや、気の滅入る話だ。
「いや……、滅入る気にもならない話なのか」

『クビキリサイクル』より

名言、ではないかもしれませんね。

でも物語の始まりでこれを書くことで、主人公の特徴を効果的に表現できていると思いました。

ちなみに「一番狭い部屋」とした案内されたのは倉庫だったようで、それが自室よりはるかに広いときたら、確かに滅入っても仕方ない気持ちにもなりそうです。(笑)

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)④

「……って、あれ、まだ全然暗いじゃん。じゃあ別に爽やかじゃないね。やだねー。朝起きたときにはやっぱり太陽が高く昇っていて欲しいもんだよ」
「それは昼だ」
「それにしてもよく寝たよ」

『クビキリサイクル』より

これは迷言ですね。(笑)

当たり前のことを言ってるだけですが、謎の魅力を感じました。
こういうユーモアのある掛け合い、好きなんですよ。

最後に会話が噛み合っていないのもポイント、かと。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑤

「——赤音さんにしたって弥生さんにしたって久渚ちゃんにしたってさぁ、俺達とジャンケンしても三回に一回しか勝てないんだぜ? 真姫さんは、そりゃ例外としてもさ」

『クビキリサイクル』より

誰かに羨望したり嫉妬したとき、この名言を思いだしてください。

あなたはその誰かに、三回に一回はじゃんけんで勝つことができます。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑥

「……それにあっちゃんはジオサイドを作っただけで満足しちゃってるからね。自己満足だけで満足できる人なんだよ」
「そりゃ随分とまあ、幸せなことだな……」

『クビキリサイクル』より

自分と他人を比べて落ち込むことは誰にでもあると思いますが、相対評価でなく絶対評価を下せるようになれば、たしかに人生幸せかもしれませんね。

まあ、あっちゃんは超天才なので、ジオサイド(独自開発したOS)は世間的評価も超高いはずでして。
そんな天才だからこそ、他人には興味がない性格なのかもしれません。……元も子もありませんが。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑦

明るい、溌剌とした声でぼくに笑顔を向けたのは、ダイニングの掃除をしていたあかりさんだった。いや、違う、あかりさんじゃない。あかりさんはぼくに溌剌と挨拶をしたりしない。そんなあかりさんはぼくのあかりさんじゃない。ということは、
「どうもです。ひかりさん」
これはどうやらひかりさんのようだと判断し、僕はそう言った。

『クビキリサイクル』より

読んでて笑ってしまったので載せました。
迷言ですね。

基本的に冷めているいーちゃんですが、時折妙なところで暴走します。

これだけの内容に、こんなにも文量を割いて許されるのが『クビキリサイクル』という作品なんです。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑧

「途中でやめたら意味なんかありませんよ。結果が全ての世の中です」
「全てが結果なのだと、私は思うけどね。〈後略〉

『クビキリサイクル』より

よく聞く台詞に、言葉遊びで疑義を呈しております。

詳細はの名言⑨にて。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑨

「〈略〉日本人にはよくいるじゃないか、努力したことそれ自体を誇りに思う人間が。これだけ苦労したんだから結果なんて関係ない、とね。努力はそれだけで価値がある、とか。私はああいうの認めてもよいと思う。《努力をした》というのはそれで立派な結果だからね。私が気にくわないと思うのはやればできただとかやらなかったからできなかっただけだとかそういう妄言を吐かす輩の方だ。《できるとは言ったがやるとは言ってない》。全く……色々な人間がいるよな、世の中には」
「ぼくはできないからやらないんですよ」

『クビキリサイクル』より

いーちゃんの切り返しが秀逸すぎますね。

しかし、いーちゃんには「やらないからできないんですよ」と言ってあげたいところです。戯言ですが。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑩

「苦労したことは一度もない」
きっぱりと赤音さんは言った。
「ただ、努力はしたがね」
含畜のある台詞だった。

『クビキリサイクル』より

「努力を努力と思ったことはない」系の名言は良く目にしますが、”努力を苦労と切り離した”名言は秀逸です。
僕も自覚的に努力したいところです。

ちなみに含畜(がんちく)の意味が分からなかったので調べたところ、「含みを持っていて深いこと」みたいな意味らしいです。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑪

「いーちゃん、ひょっとして退屈してる?」
「ぼくは人生に退屈してるんだよ」
「それ、格好悪いよ」
あう。
さらっと言われてしまった。

『クビキリサイクル』より

耳が痛いような気もしましたが、まさにそうですね。
人生を謳歌したいものです。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑫

「やりたいことだとかやりたくないことだとか……、自分の無能を棚に上げてる奴って、わたし大っ嫌い。図々しく生きてるんじゃないよって思う。そりゃ死ねとは言わないけど、もっと申し訳なさそうに生きて欲しいわね。ぎゃあぎゃあわめていないで何でもやればいいのに。わたしだったらどんな平凡な男だって虫のはらわただって、芸術に仕上げて見せるわ」

『クビキリサイクル』より

辛辣ですが、その通りですね。
つべこべ言わずにやればいい。動き出せばいい。

ちなみに、ここで言う「平凡な男」はいーちゃんのことでして、「虫のはらわた」と同列です。
「虫」じゃなく「虫のはらわた」とするあたり、さすがのセンスです。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑬

広いこの世界に自分はたった一人しかいない。
別にいい。
孤独は好きだ。
虚勢でなく。
虚勢でも。

『クビキリサイクル』より

個人的にすごく共感しました。

だんだんと弱気になっていく様を端的に表現しているのが見事です。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑭

「他人のために感情を発揮できる人間はね、何かあったときに他人のせいにする人間だからだよ。あたしはね、きみみたいな人間が最高に嫌いだよ」

『クビキリサイクル』より

僕が『クビキリサイクル』を初めて読んだのは学生のころですが、10年ほどたった今でもこの台詞がすごく印象に残っています。

他人のために感情を発揮できて、何かあったときには自分で責任を取れる、そういう人間に僕はなりたいです。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑮

「僕様ちゃん魚が羨ましいよ。あいつら、一生お風呂なんて入らなくてもいいんだからね。〈略〉」

『クビキリサイクル』より

迷言です。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑯

誰にも理解されず。
誰にも理解を求めず。
他人に頼らず己を頼み。
自分を食い潰しながら生きていく。
「……それも一つの生き方ですよ」

『クビキリサイクル』より

言っていることは解りますが、そうはなりたくないなと思わされます。

”……”の部分に葛藤を見て取れるのがまた切ないです。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑰

「即答だねえ……。本気で嫌がってるね? うふふ、あたしは師匠から《人の嫌がることを進んでしろ》と教えられているからね。そのようにさせてもらうよ」
「それはそういう意味じゃないだろうと愚考しますけれど」

『クビキリサイクル』より

日常でも使える迷言も紹介しておきます。

悪戯したときなどに言ってみて下さい。
僕はかつて友人に言われたことがあります。

西尾維新という作家を僕に教えてくれた友人にはとても感謝していますが、これを面と向かって言われたときは正直イラッとしました。少しだけ、ですが。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑱

後悔するという行為には心を休ませる意味があるらしい。とりあえず後悔だけしておけば、今目の前にある問題から逃げることができる。悪いのを全部昔の自分にしてしまって、だからそれは、とりたてて自責ってわけでなくて。
後悔している間は正しい自分でいられるから。

『クビキリサイクル』より

これ、すごい発想だなと感心したのですが、いーちゃん(もとい西尾維新先生)は自分で思いついたんですかね?
哲学や心理学にこういう考え方があるのでしょうか?

自分で考えたのなら発想力がエグすぎです……!

後悔ばかりしている僕には耳の痛い名言でもあります

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑲

「死ぬべき時節には死ぬがよく候、だよ。私は、園山赤音は、いつ、どこで、誰に、どんな風に、どのような理由で殺されようとも、文句を言うつもりは一切、ない」

『クビキリサイクル』より

さすがに殺されるのは御免ですが、死というものに対する覚悟としては、僕もこうありたいです。
いつ死んでもいいように、今日を生きていきたいものですね。

……スティーブ・ジョブズ氏のスピーチが蘇ったので、ついでに載せておきます。

I have looked in the mirror every morning and asked myself: “If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?”

スティーブ・ジョブズ氏のスタンフォード大学でのスピーチより

以下は僕なりの意訳になります。

”私は毎朝、鏡の前に立ちます。そして問うのです。
「もし今日が人生最後の日だったとして、私は今日やろうとしていることをしたいと思うだろうか?」”

悔いなく、毎日を生きたいと思う今日このごろ……。

『クビキリサイクル』の名言(迷言?)⑳

「——そいつのことが好きなんですよ」

『クビキリサイクル』より

まあ、これは外せませんよね。

戯言遣いのいーちゃんが、一切の戯言を排して懇願した一言。

クライマックスに相応しい、飾り気のない、だからこそ至高の名言です。

おわりに:『クビキリサイクル』おすすめです

気付けばこの記事1万字を超えています。(引用文も含めてですが)

僕にとっては思い入れの強い作品でしたので、久々に精読して、紹介感想記事を書いて、すごく満足です。

すべての小説は読み手の好みが別れるものですが、なかでも『クビキリサイクル』はその傾向が強いと思います、

とはいえ一度ハマれば抜け出せなくなる魅力に溢れた作品ですので、興味を持って頂けた人は、ぜひぜひお手に取ってみて下さい。

シリーズは全9冊。
さらに、いーちゃんが主人公ではありませんが、同じ世界観の派生作品も多くあります。

一度ハマれば、しばらくは戯言シリーズの世界を存分に楽しむことができます!

スポンサーリンク
>運営者・葛史エンによる感想&アドバイス

運営者・葛史エンによる感想&アドバイス

小説を書くのが大好きななあなたへ。 僕にあなたの小説を読ませてください。率直な感想と、日々培った知識からのアドバイスをお伝えします。

CTR IMG