「まほろば」は日本の古語で、”素晴らしい場所” という意味。
『神さまのいる書店』では、とある不思議な書店の名前となっていて、”幻の場” という字を当てて”幻場(まほろば)”と造語しています.。
というわけで、今回舞台となるのは”生きた本” たちを販売する不思議な書店『まほろば屋書店』です。
本が大好きな女子高生・ヨミと、『まほろば屋書店』に住む青年・サクヤとの出会いを描きます。
『神さまのいる書店』は読書感想文の題材として採用されることも度々あるそうで、それも納得の読み味となっています。
クセのない文体。変に捻らないまっすぐなストーリー。スラスラと読める小説に仕上がっています。
『神様のいる書店』感想
単刀直入に感想を述べると、
- ”生きた本” という設定が面白い。それを”販売” する店が舞台というのも様々な展開が期待できそう。
- スラスラ読めるのでお子様にもおすすめ。逆に言えば物足りないと感じる人も多そう。
- 暗い展開が少なく、明るい気持ちになりたい人にはおすすめ。(スパイス程度の暗い要素はあります)
といった感じでしょうか?
日常に飛び込んでくる不思議体験を描くといった要素が面白いと思いました。
ボーイミーツガールしている点で万人受けもよさそう。
ただ、良くも悪くも淡泊な印象が拭えません。
予定調和に過ぎるというか、ほぼほぼ予想通りに物語が展開されます。そして、登場人物たちの行動原理が描写しきれていないかな、と個人的には思いました。
もう少し深く心情的な部分も描いていただけると、もっともっと面白くなるのではと感じます。
とはいえ、冒頭でも述べたように本書は読書感想文の題材としても採用されているようで、”スラスラ読める本” であることや、”優しい気持ちになれる物語” であることが評価されているのではと思います。また、主人公のヨミが”本が大好き” という点も読書感想文にはもってこいなのでしょう。
読書に苦手意識のある方。読書に慣れていないお子様。ふわりと優しい世界観や、ユニークな設定を楽しみたい方。
上記のような方にオススメの一冊です。興味のある方はぜひ読んでみて下さい!
”書き手視点” 感想・考察
以降ネタバレを含む可能性がありますので、未読の方はご注意下さい!
”生きた本”という設定について
”生きた本” を”販売” する書店という設定。なんといってもこれがこの物語の魅力ではないでしょうか?
「そう。魂とは本来、こんな感じで肉体に宿るものですが」
と言いながら、ナラブが自身を示す。
「そうではなく、まれに、本に宿ってしまう魂があるんです。そうしてできるのが、まほろ本」(26ページより)
ちなみに「ナラブ」さんは、書店の主です。本作では登場人物はみんなカタカナ表記でして、これは登場人物を覚えやすくする効果があるのではと思います。ますます、読書感想文向けですね。
さて、本題は”まほろ本”です
”まほろ本” と呼ばれる生きた本は、動物や人の形を模してはいますが、あくまで本が本体。
たとえば、「豆太」という子犬が登場します。見た目は頭の上に小さな本を乗せた子犬なのですが、実は豆太もまほろ本であり、本体は頭の上の本なのです。その本には触れるのですが、身体は立体映像のようなもので、見えるけど触れないといった設定になっております。
この存在するけど触れないというのは、もどかしい感情を描くのにもってこいです。
キャラ同士の仲を深めていき、互いに触れたいと思っても触れられないというシーンを描けます。そのやるせなさは読者の共感も呼べるはず。
さらに、まほろ本の面白いところは本の部分は触れるということです。まったく触れることができないわけではなく、本を介してであれば互いに干渉することができるのです。これを生かしたシーンもいくつか見られ、面白かったです。
個人的に惜しいと思うのは、”本” という要素と”生き物” という要素がイマイチ繋がっていないことです。
本作の中では、まほろ本という”本”に書かれた内容についてはあまり触れられていません。
先ほどの豆太にしても、子犬は子犬、本は本といった感じで相互関係がないんですよね……。
せっかく”生きた本” という面白い設定なのですから、もっとストーリーに生かせる要素を加えればいいのにと感じました。
例えば、まほろ本にはその生き物の過去が描かれていて、本に触れるとその過去がストーリーになって触れた人の脳裏に再生されるとか……?
かなりありきたりですが、これだけで主人公といろんなまほろ本との出会いを描いた話をつくれると思います。
単純な伏線の是非について
本作のストーリーは良くも悪くもまっすぐです。
読んでいただければわかると思いますが、伏線もかなりわかりやすいです。もはや伏線というよりは予報と呼んでいいレベル。
この一文があるからには、後々こうなるしかないよね……、といった感じで先が読めてしまいます。
私は読んでいるときは「もったいない」と思っていたのですが、いざ読み終わってみると「わかりやすい伏線もありかな?」といった心境に変わっていました。
これまで私の中で伏線は、後から振り返って「あれが伏線だったのか! くそう、気づかなかった!」という驚きを与えられるほど良いものと思っていました。
しかし、今回のように単に先を示されることで、「そうなるんだろうけど、そのシーンが気になるな……」という気にもなると学ばせていただきました。
今後は読みやすい伏線と、驚きを与える伏線とを使い分けていきたいと思います。
おわりに
ということで今回は『神様のいる書店』をご紹介させていただきました。
個人的な評価としては、ちょっと物足りないといった感じでしたが、設定や世界観、読みやすい文体は秀逸だと思います。
興味のある方は読んでみてくださいね!
それでは、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!