本日の参考文献:デイヴィット・マクレイニー[著]、安原和見[訳]2014『思考のトラップ 脳があなたをダマす48のやり方』二見書房
人は意識下に形成される観念からつねに影響を受けていて、しかも自分ではそれに気づいていない。
(16ページより)
プライミング効果とは、人が無意識のうちに受けた何らかの刺激が、その後の行動や思考に影響を及ぼすことを言います。
プライミングは”呼び水”という意味です。呼び水は、ポンプを使って水をくみ上げる際に、上から加える水のことです(ポンプは内が水で満たされていないと、井戸等から水を汲み上げられません)。
無意気のうちに受ける刺激が”呼び水”で、それによって汲み出される水が”行動や思考” とイメージすると、プライミング効果を覚えやすいかもしれません。
プライミング効果の具体例
プライミング効果は、心理学者による研究が始まる以前から商売に使われてきました。現在でもありとあらゆる広告や、店の内装等で利用されています。そのいくつかの例を本書から挙げます。
カジノ
賑やかなベルや音楽、金属容器に貯まるコインの音→富の象徴であり、お金を使わせる思考を呼び込みます。
カジノ内には時計がなく、睡眠も食事もできる→外界(カジノの外)を連想させるプライミングを一切排除することで、長い間カジノ内に居てもらえるのです。
コカコーラの宣伝におけるサンタクロース
1931年、コカコーラの宣伝にサンタクロースが採用されました。これもまた、上手くプライミング効果を生み出しています。
サンタクロースはクリスマスのシンボルですので、サンタクロースを目にしたとき、人々は楽しかったクリスマスの思い出を呼び起こします。この楽しい思い出とコカコーラとを人々は無意識に結びつけているため、コカコーラと他の炭酸飲料を並べたときに、コカコーラが選ばれやすくなるのです。
スーパー内のベーカリー
焼きたてのパンの香りが売り上げ増加につながることがわかっています。嗅覚によって食欲に訴えることで、食料品を買いたくさせるのですね。
食料品に「天然素材百パーセント」表示や、農場等ののどかな絵を入れる
自然を連想するため、工場や合成保存料などの人工物を思い出しにくくなり、売り上げに増加につながります。
プライミング効果を引き起こすのは人の「無意識」な部分
人の精神は2つに分けられます。「意識的な部分」と「無意識的な部分」ですが、本書ではこれらを「上層の論理的な自己」と「下層の感情的な自己」と表記しております。
まずはこれらの特徴を述べます。
- 論理脳(上層の論理的な自己)→なじみのない単純な情報の処理に向いています。なじみのない(経験不足)な情報の処理は無意識下で行えないため、論理脳で行うことになります。”単純な”と表現したのは、論理脳の情報処理できる量が少ない(一度に4〜9ビット)ためです。
- 感情脳(下層の感情的な自己)→論理脳より進化しており、複雑な選択だとか、難しい仕事を自動処理するのに向いています。人が無意識に行えること(ダンスや、音を外さず歌うこと、カードをシャッフルすることなど)は、実はとても複雑な情報を処理しており、こういう処理は感情脳による「無意識」にまかされることになるのです。
人はこれら2つの脳が並行して活動しているわけですが、論理脳が意識的なものであるのに対し、感情脳の出力が意識下に現れることはありません。(感情脳の出力は直感や感情となって現れるのです。)
人が経験することは、まず見えない場所——つまり無意識の領域——で噛み砕かれて、それに基づいて「こうしろよ」という声が意識の表層に届けられる。そのおかげで、なじみの状況では直感に頼って行動できる。しかし、新しい状況に直面したときには、表層の意識を起動しなくてはならない。
(27ページより)
プライミング効果はこの無意識の領域で起こるため、私たちはそれを知覚することはできないのです。
プライミング効果を利用する
プライミング効果は無意識下でしか起こせないため、これを直接的に利用することはできません。しかし、間接的に利用することはできます。その例を挙げます。
- 採用面接で着ていく服を考え、面接官にプライミング効果を及ぼす
- パーティーを開く際、どんな雰囲気をつくるかによって客の感情をにプライミング効果を及ぼす
- 笑顔で挨拶することで、相手の気持ちを変化させる
- 買い物には買う物リストを持っていくことで、プライミング効果による過剰な買い物を防ぐことができる
- 整理整頓を習慣とすることで、散らかった光景から受けるプライミング効果を防げるため、怠け癖を直すことができる
自分を直接プライミングすることはできないが、環境を整えることによって精神状態に働きかけ、望み通りの効果をあげることはできる。〈略〉意味のある物品で部屋をいっぱいにしたいひともいれば、なるべくものを待たないという理想に意味を見いだす人もいるだろう。いずれにしても、そういう「意味」が影響力を発揮するのは、おそらく人がまるでそれを予期していないときなのだ。
(34ページより)
おわりに
「人は自分の知っている以上のことを知っている」という文句が本書に登場するのですが、ここで言う”知っている”は無意識下でのことですから、当然自分では知覚できません。それでも”知っている”ことになるのは面白いなぁと思いました。そして人の精神というのも難しいものですね。
ワナビである私的には、このプライミング効果を上手く小説で使えないかと考えました。文字が媒体である小説は、そのイメージを読者に委ねる部分が大きいので、大きな効果が期待できるのではと思います。漠然としてはいますが、”一を書いて十を読者に想像させる” 文が書けたらいいなと思う次第です。
今回の参考文献である『思考のトラップ』には、今回ご紹介したプライミング効果をはじめ48の興味深い事項が載せられています。理論的なことはもちろん、その裏付けとなる実験や研究が多く挙げられていますので、興味のある方は読んでみてください。
本日はありがとうございました。それではまた。