賀東招二『コップクラフト』感想〜マトバとティラナは相棒なり得るか?〜

舞台は「異世界へのゲートが開いた地球」。
サンテレサ市警の刑事・マトバは、異世界から来た貴族兼準騎士の少女・ティラナのエスコートを任されることに。

直近の任務で長年の相棒を失ったばかりだったマトバはティラナを邪険に扱い、対するティラナもマトバを卑下するという最悪の出会い。
しかし、いつの間にか二人は相棒的な関係を築くことになっていき・・・。

[voice icon=”https://izenkei.com/wp-content/uploads/2019/01/fd261bfb4bc7e62020d86679888512ec-20190111224533.png” name=”葛史エン” type=”l”]アメリカンな刑事ものにファンタジー要素を加えた物語です。リアリティ有りのシリアスなストーリーながら、マトバとティラナの凸凹コンビにラノベ要素を感じずにはいられません。
格好良くて、考えさせられて、そして随所で和まされる良作でした![/voice]
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『コップクラフト』のあらすじ

コップクラフト DRAGNET MIRAGE RELOADED (ガガガ文庫)

海上に現れた”ゲート”によって異世界「レト・セマーニ」と繋がった地球が舞台になります。

主人公・マトバは、カリアエナ島サンテレサ市警に所属する日本人刑事です。

”妖精”を売買する不法取り引きを取り締まるため、相棒と囮捜査を行っていたマトバ。
しかし、追い詰めたはずの犯人が何者かに操られ、その人間離れした力によって相棒を殺されてしまいます。

長年の相棒を奪われたマトバは黒幕を捕らえるべく動き出そうとしますが、上司が次なる任務として指示したのは、異世界・セマーニからの来客を迎えることでした。

渋々ながら命令に従うマトバは海上のゲート前に船で出向き、異世界からの来客を迎えます。

ところがやって来たのは浮き世離れした美しさを持つ少女でした。

少女の名は『ティラナ・バルシュ・ミルヴォイ・ラータ=イムセダーリャ・イェ・テベレーナ・デヴォル=ネラーノ・セーヤ・ネル・エクセディリカ』とのこと。(名前がやたら長いのは家名やら役職やらが含まれているからのようです)

どう見ても中学生くらいに見えるティラナですが、セマーニの世界では27歳。
地球の年齢に換算してみると20歳前後なのだそう。

ティラナが持参した書類には、彼女の年齢は『二七歳(セマーニ年齢)』とあった。
(こちらの地球年齢だと……)
頭の中でざっくり暗算すると、おおよそ二〇歳前後だ。いちおう成人には達していることになる。
ちらりとティラナの横顔を見る。
やはりどう見ても一三、四歳くらいだ。

賀東招二『コップクラフトDRAGNET MIRAGE RELOADED 』
(Kindle の位置No.542-545)

気が合わず、何かにつけていがみ合うマトバとティラナでしたが、実は二人の目的が一致していることが明らかになります。

ティラナが地球にやって来た目的は「妖精を助け出すこと」でした。
マトバの相棒が殺されることになった囮捜査で売買されていたあの妖精です。

マトバにとっても、妖精を追うことは相棒の敵たる黒幕に近づくことに等しい。

そんなわけで目的を同じくして行動を共にすることになるマトバとティラナ。

皮肉の効いた軽快なやり取りをしていたかと思えば、相手を見直すような出来事もあったり。
二人は互いも探りながら、捜査を続けていきます。

二人はそれぞれの目的を達成することができるのか?

そして二人の関係はどのような形に落ち着くのか?

異世界が繋がったことで変容しつつある世の中で、マトバとティラナがどうなっていくのか目が離せません!

ネタバレ無し『コップクラフト』の感想

アメリカンな雰囲気に混じる異世界の空気

カリアエナ島サンテレサ市は「どの国でもない」とされていますが、実際はアメリカの管理下にあるとのことです。

ということで生活はアメリカ式のもの。
そこに「異世界・セマーニの要素」が加えられ、独自の生活様式を形成しています。

  • ”妖精”を材料にした麻薬が出回ったり
  • 異世界人への差別があったり(マトバ自身、セマーニの人間を”宇宙人”と称することもしばしば)
  • 地球とセマーニの常識がそもそも違っていたり

といった具合です。

地球は科学を、セマーニは魔法や信仰といったものを重視しているので、その溝を埋めるのはなかなかに難しそうです。
それはマトバとティラナを見ていてもよくわかります。

基本的にはアメリカ刑事ものの雰囲気を主体にしていますが、そこに異世界要素が加わることでさらに面白い世界観をつくり出していました。

マトバとティラナを始め、軽快なやり取りが満載

アメリカのドラマや映画によく見られる軽快なやり取りが『コップクラフト』の一つの魅力だと感じました。

基本的にシリアスなストーリーなのですが、そんな中に和むシーンがあったり、キツい状況を皮肉ってみるシーンがあったりと、小気味良く読むためのバランスが素晴らしいです。

特にマトバとティラナの軽口は、仲が良いのか悪いのかよく分からないものが多く、この二人の今の好感度を探りながら読むのも一興でした。笑

「魔法が使えると?」
「少しはな」
「ふむ。じゃあその魔法で犯人がどこにいるのか捜してくれよ。それで万事解決だ」
マトバの皮肉にもティラナは怒ろうとしなかった。ただ心底あわれむような視線を彼に投げかけただけだ。
「おまえには想像力というものがないようだな、ケー・イマトゥバ。おまえの頼みは、ドリーニの道具でいえば『フライバンで文字を書け』とでも言っているようなものだ。術は偉大だが万能ではない。その貧しい頭にたたき込んでおけ」
「おおせのままに、閣下。高貴なる役立たずの、ありがたいお言葉を胸に刻んでおくとするよ」
ティラナがにらみつける。マトバはそっぽを向く。

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賀東招二『コップクラフトDRAGNET MIRAGE RELOADED 』
(Kindle の位置No.805-811)

マトバとティラナの関係

マトバとティラナは当初、目的が同じなので仕方なく協力しているといった感じでした。

しかし行動を共にしていくうちに、お互いの評価は次第に変化していきます。

口を開けば相変わらずの皮肉の応酬なのですが、いつのまにか気の置けない雰囲気を醸し出していることもしばしば。

緻密な世界観やシリアスなストーリー、随所に臭う政治的な要素など、本格的な小説の中にあってマトバとティラナの関係はとてもラノベらしい要素と言えそうです。
ベテラン刑事で修練しきった佇まいのマトバと、どうみても中学生にしか見えない美しすぎる準騎士の少女という組み合わせは、ビジュアル的にもかなり面白いです。

『コップクラフト』は2巻以降も発売されているので、今後も含めて二人の関係がどうなっていくか楽しみです。

ネタバレ有り『コップクラフト』の感想

これ以降は多少のネタバレを含む感想を書いていきます。
決定的なネタバレは避けますがご注意ください!

また、僕は自分でも小説を書くので書き手からの視点でも感想を書いていきます。

『コップクラフト』で最も印象的だったシーン

個人的に一番印象的だったのが、地球人とセマーニ人との関係を考えるマトバが、子供の頃あった出来事を思い出すシーンです。

マトバが日本に住む中学生だった頃、母親がパソコンの不具合についてサポートセンターに問い合わせたことがありました。
電話したのは母親でしたが、彼女はすぐにマトバに電話を代わってしまいます。
マトバが電話を受け取ってみると、対応しているのは中国人の担当者です。
達者な日本語で懇切丁寧なやり取りをしてくれました。

だというのに、マトバの母親は──普段は善良な女だった──気味悪そうに『やあねえ、外国人を使うなんて』とぼやいていた。あのとき、マトバは幼いながらも初めて感じた。『自分たちは負けるかもしれない』と。あの中国人のサポート担当者の優しい声こそが、それまで経済的に優位を保っていた日本という国に属する彼に、漠然とした不安を与えたのだ。ニュースで見る日本人相手の犯罪や、反日デモや暴動などではなく、あの優しく真摯な声こそが恐ろしかった。
セマーニ人も同じだ。

賀東招二.『コップクラフトDRAGNET MIRAGE RELOADED 』
(Kindle の位置No.2988-2993)

セマーニ人によって居場所を脅かされつつある地球人の心境を、とても巧く自分事に当て嵌めている描写だと思いました。

共感する人も少なくないのではないでしょうか?

自分が今いる場所を、新しくやってきた有能な者に追い出されそうになることへの恐怖。
それが、無意識ながらセマーニ人への対応へ出てしまう地球人。

そういう意味でも、地球人・マトバと、セマーニ人・ティラナのコンビが今後どうなっていくのか注目ですね。

異世界と繋がり、変遷の時を迎えている『コップクラフト』の地球は、現代の僕たちとも通ずることが多そうです。

最も印象的だった描写

幼いながらも憂いを秘めたほほえみ。哀しげな瞳。マトバは目の前の少女が何歳なのか、本当にわからなくなってしまった。

賀東招二『コップクラフトDRAGNET MIRAGE RELOADED』
(Kindle の位置No.3365-3367)

僕が本作で最も印象的に感じた描写です。

マトバがティラナを評しています。
明確なネタバレは避けますが、このシーンにとても合った描写です。

度々あったマトバがティラナを見直すシーン、その極地とも言えそうです。
ここまでのストーリーがあったからこそ映えるシーンだと思いました。

戦闘シーンも魅力的。
決着はややあっけないか。

賀東先生は『フルメタルパニック!』の作者でもあります。
ベテランであることも含め、その文章力は確かなものです。

特に戦闘シーンは細かな部分まで描写されていて、それが端的に伝わってくるので脳内で映像のように再生されます。
この辺りは僕も勉強させて頂く思いで読んでいました。

そして戦闘シーン以外でも言えることですが、いろんな要素が結構あっけなく決着するという印象が大きかったです。
必要以上に盛り上げることはせず、淡々とストーリーが描かれていくといった感じ。
もちろんそれが悪いということではなくて、独特の余韻を残しているなと思いました。

その場の勢いだけに頼らない作者さまの手腕にも注目して読んで頂ければと思います。

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おわりに

ということで今回は小説『コップクラフト』のご紹介と感想でした。

僕は『コップクラフト』を『Kindle Unlimited(電子書籍の読み放題サービス)』を読んだのですが、続きも読みたくなったので2巻以降も購入してみようと思います。
本は断然紙派だった僕ですが、最近はKindleで読書することを試していて、想像以上に快適なことに気付きました。

特に『Kindle Unlimited』は月額千円弱で大量の本が読み放題なので重宝しています。
当ブログでも今後は『Kindle Unlimited』で読めるおすすめ本を紹介していこうと思いますので、気になるものがあった場合にはぜひ読んでみて下さいね!

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>運営者・葛史エンによる感想&アドバイス

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