『死者殺しのメメント・モリア』(メディアワークス文庫)を読みました!
”文字” を媒体にする小説でありながら、濃淡鮮やかに青の色彩を読者に印象づける作品です。
特徴はなんといっても美しい文章と表現力です。
突然ですが、小説を読み慣れてくると、思わず「飛ばし読み」してしまうことってありませんか?
「ここは本筋に関係ないシーンだ」とか、「ここは装飾の文章だから読み飛ばしても支障ないな」みたいな感覚、読書慣れしている人だと何となく分かるんですよね。
かくいう僕も、教本や自己啓発書と同じ感覚で小説を飛ばし読みしてしまいそうになることが多々あるので、初めて読むときは絶対に飛ばし読みしないよう注意を払っています。
ところが今回の『死者殺しのメメント・モリア』はそういう配慮がなくても、味わうように読み進めることができました。
何が言いたいかというと、それくらい文章そのものに魅力がある小説なんです!
もちろん文章以外にもおすすめしたい点が多くあります。
まずは記事前半で、そういう魅力をネタバレ無しでお伝えしようと思います。
『死者殺しのメメント・モリア』を未読で、これから読んでみようか迷っている人はぜひ前半部分を参考にしてみて下さい。。
そして記事後半は僕個人が作家視点で感じた「小説を書く人はここを見習うべき!」という内容を、ネタバレ有りで書いていきます。
小説を自分で書く人にお役立ていただければ幸いです!
『死者殺しのメメント・モリア』のあらすじ&感想をネタバレ無しでご紹介します!
『死者殺しのメメント・モリア』のネタバレ無しあらすじ①:
物語のはじまりは「青の景色」……。
死は等しく青かった。
崩れた神殿のなかで青が、燃えていた。折り重なるように横たわった人々が青い焰に舐められ、燃えつきていく。貴族も奴隷も、勝者も敗者も、骨になってしまえばそこになにひとつの違いもない。
—『死者殺しのメメント・モリア (メディアワークス文庫)』夢見里 龍
青、青、青。
繰り返される色相が印象深い文章から物語は始まります。
同じ言葉や漢字を繰り返すのって、作家的にけっこう勇気がいると思うんですよね……。
読者にくどく感じられるかもしれないし、バランスも難しいし。
ところが『死者殺しのメメント・モリア』の冒頭では(というか冒頭以降も……)、恐れることなく多彩な「青」を表現しております。
死は等しく青いという不穏なワードにつづく、青の焰に燃える神殿という光景を幻想的と見るか、不気味と見るかは読者のあなたに委ねられています。
『死者殺しのメメント・モリア』のネタバレ無しあらすじ②:
青に囲まれて邂逅するのは”娘” と……”死神”?
娘と、青年が邂逅します。
「契約を結ぼう。望みを遂げるまで俺はあんたの従僕だ」
娘は契約の証として死神に心臓を捧げた。—『死者殺しのメメント・モリア (メディアワークス文庫)』夢見里 龍
娘との契約を口にする青年がはたして何者なのか。
冒頭では「死神なのか」という曖昧な言及しかされません。
しかも、このシーンでは青年の発言のみが描写されており、少女がどんな想いを語ったのかは明かされません。
すべては、たったひとつの望みを遂げるために。
—『死者殺しのメメント・モリア (メディアワークス文庫)』夢見里 龍著
冒頭はこんな一文で締めくくられます。
その真相へ帰結する旅を、ぜひ美しい文章の物語でお楽しみください。
『死者殺しのメメント・モリア』のネタバレ無し感想
僕はネタバレ無しのあらすじを書くとき、さじ加減にかなり迷います。
明かしすぎると読者さんの楽しみを奪ってしまうし、伏せすぎると作品の魅力を十全に伝えられないし……。
今回の『死者殺しのメメント・モリア』もかなり迷ったのですが、結局最低限の情報だけ紹介することにしました。
具体的には、先述したように一番最初のワンシーンだけです。
というのも、『死者殺しのメメント・モリア』ってあらすじや伏線をあれこれ語らずとも楽しめてしまう作品だと思ったんですよ。
伏線とかバックストーリーとか、作家視点で見れば感嘆すべき要素もたくさんあるのですが、作者の夢見里先生はあえてシンプルにこの作品を表現している印象なんですよね。
”要素が薄い” ではなくて、あくまで”シンプルに表現” ってのがスゴくてですね、良い意味でストレスなく読める作品ですし、ストーリーもさることながら、やはり文章や描写そのものを純粋に楽しんでいだきたい作品です。
……とはいえ、もう少しだけこの作品の魅力や特徴をお伝えさせてください。
もし、以下のような要素が好みだという人には自信を持って『死者殺しのメメント・モリア』をおすすめできます!
- 美しい表現や描写で紡がれる物語をゆっくり楽しみたい人
繰り返しになりますが、文章表現がすごく豊かで多彩な作品です。ストーリーさえ分かれば文章は読みやすさ最優先……、という人には向いていませんが、文章を楽しみながら味わいたい人には超オススメです! - 少女と青年(死神?)の曖昧模糊な関係を楽しみたい人
主人公は”死を葬ること” を信念とする美しい少女です。そんな少女と行動を共にしている青年は、契約によって少女に寄り添います。ただ、少女と青年の間にあるのが、契約という無機質なものだけなのかというと、そこはひどく曖昧。絵に描いたように誠実然とした少女と対照的に、青年は危うさ満載のふぜいですが、そんな二人を繋ぐのははたして……? - 考えさせられる&感動する名言の数々を楽しみたい人
『死者殺しのメメント・モリア』は、タイトルからも分かる通り”死” を描く作品です。自然とシリアスなお話や、死に対する価値観の表現などが多数登場することになります。小説という一つの世界を紹介するこの場で作者さまの名を出すのも無粋かもしれませんが、夢見里先生は感性豊か、かつ繊細に「”死” とはどういうものか?」を表現しています。物語を楽しみながら、そういう思想に触れたい人にもぜひ読んでいただきたい作品です。
小説書き視点『死者殺しのメメント・モリア』のここを見習いたい……!(ネタバレ有りです)
※画像はイメージです
ここからは、自分でも小説を書く人が『死者殺しのメメント・モリア』から何を学ぶべきなのかを、僕なりにお伝えしていこうと思います!
※この先はネタバレを含む内容となっています。未読の人はご注意ください!
①『死者殺しのメメント・モリア』に学ぶ「小説文章のあり方」
小説にルールはありません。
唯一守るべきはきちんと読者に伝わることです。
これは文体や表現にも言えることで、小説を書くならまずは分かりやすい文章を書くことが重要になります。
と、偉そうに言っている僕ですが、読者さんからの感想や、公募で頂く評価シートで「文章が回りくどい」と評されることが多々あります。
一応、自分なりに改善に努めてはいるのですが、これがなかなか上手くいきません……。
というのも、僕は自作を単調すぎる文章にしたくないという想いがあり、その妥協点を探っている感じなんですよね。
キャラが魅力的で、ストーリーや設定が読者さんに分かりやすく伝われば、表現は二の次だと割り切る考えもあるかもしれません。
でもやっぱり、それじゃ文字だけで表現する小説という文化の強みが活きないと思うわけです。
さて。
なぜいきなり自分語りをしたかといいますと『死者殺しのメメント・モリア』が、そんな僕の葛藤をはねのけてくれる痛快な作品だったからです。
『死者殺しのメメント・モリア』は惜しみなく情景描写に文量を割き、言葉選びから表現に至るまで、こだわり抜いた文体で紡がれた物語でした。
そういう書き方をした上で、世に作品を送り出すという結果を出しています。
ネット上での評判もかなり上々なようで、もちろん「自分には向いていない文体だった」という感想もありましたが、それ以上に多くの読者さんがこの作品の虜となったようです。
面白い作品を書きたい。
その上で、自分だけの文体もちゃんと表現したいと願っている作家さんは、一つの好例としてぜひ『死者殺しのメメント・モリア』を読んでみてください。
②『死者殺しのメメント・モリア』に学ぶ「シンプルな構成で物語を紡ぐ」こと
僕が直近で読んで記事にした作品は『クビキリサイクル』と『ユア・フォルマ』です。
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この2作品はどちらも巧みな構成や伏線が見事な小説でした。
対して『死者殺しのメメント・モリア』はシンプルな構成だと個人的に感じました。
もちろん伏線や前フリ(伏線までいかないけど、情報を予め出している)は随所にちりばめていますし、回想への自然な導入も見習うべきものでした。
ただ、必要以上に凝ったことをしていなくて、良い意味でシンプルなんですよね。
『死者殺しのメメント・モリア』のつくりを見てみると以下の感じです。
- 短編的な話をいくつか描いて、それらを上手く繋いでラストへ向かう。
- その間に度々回想を挟むことで、主人公の情報や、提示されていた謎への回答を明かしていく。
読者の興味を引き続ける要素はきちんと取り入れていますが、ほんとうに必要最低限といった印象でした。
このシンプルさが作品にどう作用しているかを僕なりに考えてみたのですが……。
ひとえに、目の前の出来事や情景に集中できる小説に仕上がっていると思うんです。
ややこしい設定や伏線に気を取られることなく、今まさに読んでいるシーンを純粋に楽しめる。
美しい文章や、細やかで豊かな表現が強みである『死者殺しのメメント・モリア』に最適なつくりなのだと思います。
僕はどちらかといえば、ストーリーやプロットを捻りに捻りたがるタイプなので、ときにはシンプルさも大切にしたいと、この度思わされました。
というわけで、文体という強みを活かすためのシンプルな構成を学びたい人にも『死者殺しのメメント・モリア』はオススメです!
③『死者殺しのメメント・モリア』に学ぶ「名言とメッセージ性」
”死” をテーマにした作品である『死者殺しのメメント・モリア』には、ぐっとくる名言や、思わず考えさせられる表現が随所に見られます。
言わずもがな、こういう要素は読者を引きつける魅力になり得ます。
僕は最近、Kindle(電子書籍)で小説を読んでいまして、良いなと思った文章や表現はハイライトするようにしています。
『死者殺しのメメント・モリア』は、そのハイライトがかなりの数にのぼってしまいました。
とてもすべては紹介できませんが、以下はその一部です。
地の文ではなく、会話文の方がより印象的なのがスゴいですね……。
「わたしはただ、死者は等しく眠りにつくべきだと想うだけよ」
—『死者殺しのメメント・モリア (メディアワークス文庫)』夢見里 龍
主人公の信念をこの一言で表現しています。
「思う」ではなく「想う」を選ぶあたりに、こだわりを感じます。
時が進むごとに人は死に向かっていく。時間とはすなわち、死神である。時が命を死に進ませるのだ。故に死に到れない由縁はその者の生きた時間のなかにこそ、刻まれるものだ。生と死は永遠のあわせ鏡なのだから。
—『死者殺しのメメント・モリア (メディアワークス文庫)』夢見里 龍
こういう内容は唐突に書いても説教くさくなるだけですが、物語に合わせて自然に取り入れることで、説得力と共感を伴って読者さんに伝えることができます。
「だからまちあわせをしましょう。私は、できるかぎり、ゆっくりといくから」
—『死者殺しのメメント・モリア (メディアワークス文庫)』夢見里 龍
「漢字をひらく(ひらがなで書く)」ことのお手本のようなセリフです。
読点の使い方も見事ですね。
「どうせ百年も経てばどっちも死に絶えるのに。無駄なことをしますよねえ、にんげんって。だから愚かなんですよ」
「あら、散ると知りながら花を愛することは悪いことではないわ」—『死者殺しのメメント・モリア (メディアワークス文庫)』夢見里 龍
少女と青年が対極のように描かれているので、そのギャップを効果的に用いた名言が『死者殺しのメメント・モリア』には溢れています。
「可哀想というのは金貨を天秤に掛けるように重さを量るものかしら? どちらのほうが憐れだと比べるもの? わたしはそうは想わないわ。死の、重さが等しいように」
—『死者殺しのメメント・モリア (メディアワークス文庫)』夢見里 龍
言いたいことは「悲しみも、死の重さも誰かと比べるものではない」ですが、”金貨” や”天秤” というワードで読者の想像力をくすぐることで、より「”悲しみ” や”死” の価値」が伝わってきますね。
——こんな感じで、メッセージ性の強い名言が多くある作品です。
そういった一つ一つの表現に対して、書き手の意図や作用を推し量りながら読むと、作家として大いに勉強になるはずです!
おわりに:『死者殺しのメメント・モリア』”小説”を多いに堪能してください!
ということで今回は『死者殺しのメメント・モリア』をご紹介しました!
読むことそのものを楽しむイメージで、ゆっくりじっくり読んでほしい作品です。
美しい世界を堪能しつつ、綺麗ごとだけではない儚さにも浸れること受け合いですよ。
そして、小説を書く人にとっても学ぶことの多い作品となっていますので、未読の人はぜひお手にとってみてくださいね。