小説『ユア・フォルマ』のネタバレ有り無し感想&あらすじ【基本を盤石化する】

『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』を読みました!

本作は「第27回電撃小説大賞《大賞》受賞作」です。
ライトノベル系の小説賞では最難関とされる「電撃大賞」。
その頂点に立った作品なわけですが……。

電撃大賞の一次選考も突破できていない身としては嫉妬を通り越して、感嘆を禁じ得ない作品でした。

読みごたえ抜群なのに、すごく読みやすい。
常に読者の興味を失わせない巧みな構成。
思わず感情移入してしまうヒューマンドラマ。
ストーリーや世界観に没頭できる娯楽性に加え、知的好奇心も満たしてくれる情報量……!

前回の記事で紹介した『クビキリサイクル』は読み手を選ぶ作品でしたが、今回の『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』は幅広い読者に好かれる作品だと感じました。

この記事では、そんな『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』を、まずネタバレ無しでご紹介し、後ほどネタバレ有りの感想を述べていきます。

『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』をこれから読もうと思っている人はネタバレ無しの前半のみご覧ください。
後半のネタバレ有りの感想は、主に小説書きの視点で書いていくので、小説を書くための教養を得たい人や、小説を書く人間がどんなふうに小説を読むのか興味のある人はお付き合いいただけると嬉しいです!

『ユア・フォルマ』のあらすじ&感想をネタバレ無しでご紹介します!

ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒 (電撃文庫)

『ユア・フォルマ』ネタバレ無しあらすじ①:
「ユア・フォルマ(あなたのかたち)」とは?

タイトルにもなっている「ユア・フォルマ」のルビは、「ユア・フォルマあなたのかたち」とされています。

侵襲型複合現実デバイス〈ユア・フォルマ〉は、頭の中にある縫い糸を模した情報端末だ。
その形状は直径三マイクロメートルのスマートスレッドで、レーザー手術で脳に埋め込んで使用する。ユア・フォルマがあれば、健康状態のモニタリングからオンラインショッピング、 SNSの更新まで、全てを頭の中で済ませられる。

—『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒 (電撃文庫)』菊石 まれほ

人々は頭の中に極小の情報端末を埋め込むことで、便利な生活を送っています。
SFの世界観ではありがちな設定ですが、『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』ではそこに至るまでの経緯もきちんと明かされています。

その経緯ですが……。過去に、世界規模の感染爆発パンデミックが起きたんだそうです。
その元凶となるウイルスが脳炎を引き起こす特性を持っていたようで、対策として脳にデバイスを埋め込まれました。

感染爆発パンデミックが終息した後、今度は生活を豊かにする形で進化を遂げたのが「ユア・フォルマ」というわけです。

「ユア・フォルマ」の機能は多岐に渡りますが、その最たるものが「機憶」と呼ばれます。

中でも特筆すべき機能が、〈機憶〉だ。
機憶は実際の出来事とともに、その都度ユーザー自身が抱いた感情を記録する。海馬の記憶を情報変換することで生み出され、それ故に心の可視化を可能とした。
機憶は特に、犯罪捜査の有り様を大きく変えた。国際刑事警察機構電子犯罪捜査局は、機憶捜査の行使権限を有する唯一の機関として、これらを重大事件の解決に役立てている。

—『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒 (電撃文庫)』菊石 まれほ

「ユア・フォルマ」を埋め込まれた人は、遭遇した出来事だけでなく、なんと感情まで「機憶」によって記録されてしまうとのこと……。

プライバシーの面では不安も残りますが、たしかに犯罪捜査をする人間にとってはこの上なく便利そうですよね。

『ユア・フォルマ』ネタバレ無しあらすじ②:
主人公の少女・エチカは天才「電索官」

主人公の少女・エチカは「電索官」。
「電索官」は、容疑者や参考人の「ユア・フォルマ」に”潜り”、「機憶」を見ることで犯罪捜査を行う職業です。

ユア・フォルマに記憶された情報を辿り、事件解決の糸口を探し出す。
それこそが電索官——エチカ・ヒエダの仕事だ。

—『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒 (電撃文庫)』菊石 まれほ

「電索官」には適性があります。

対象の「ユア・フォルマ」にどれだけ深く潜り、必要な情報を持ち帰ることができるかは「電索官」の才能に寄るようです。

エチカはその才能に恵まれていて、誰よりも深く潜ることができるばかりか、複数人の「ユア・フォルマ」に一度にアプローチするという離れ業までこなしてしまいます。

しかし、そんな天才少女もとある問題・・・・・を抱えていて……?

『ユア・フォルマ』ネタバレ無しあらすじ③:
少女の才能は”相棒を壊してしまう”諸刃の剣で……

「ユア・フォルマ」に潜っていく「電索官」は、「ダイバー」とも呼ばれるのだとか。
そんな文字通り”潜る”ことを仕事にする「電索官」には、相棒となる「補助官」が必須らしいです。

というのも「電索官」はひたすら潜っていくのみで、電索終了のタイミングをコントールできません。
そこで潜っている「電索官」を引き上げる役目を担うのが「補助官」というわけです。

エチカのような電索官は、情報処理能力に特化しているがために、一度電索を始めると制御が利かない。謂わばスカイダイビングのようなものだ、飛び込んだら後は垂直落下するしかない。だからこそ、命綱である電索補助官にモニタリングを任せ、然るべきタイミングで引き揚げてもらう必要がある。

—『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒 (電撃文庫)』菊石 まれほ

ただ「電索官」の情報処理能力があまりに高すぎると、「補助官」に負担がかかってしまいます。

もうお気づきと思いますが、電索の”天才”であるエチカはというと……。

「お言葉だけど」エチカは淡々と、「本来わたしのような電索官を制御して引き揚げるのは、補助官であるきみの仕事だ。つまりどこまで潜るかを決めるのは、わたしじゃなくてきみだよ」
「お前を引き揚げたくても、こっちまで引きずり込んで沈めようとするから言ってるんだろ。もう三回も、俺の頭に負荷をかけて神経を焼き切ろうとした。人殺しになりたいか?」
「病院送りにしたことはあるけど、殺したことはない」
「誰も長続きしないわけだ」唾でも吐かれそうだった。

—『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒 (電撃文庫)』菊石 まれほ

エチカはこれまで、自分の実力に見合った「補助官」と出会ったことがありません。
しかも、上記に引用したやり取りからも分かるように、いかにも”孤高の天才”といった性格です。

そんな、天才ならではの問題を抱えたエチカですが、ついに”最適な相棒”と出会うことになります。

『ユア・フォルマ』ネタバレ無しあらすじ④:
ようやく出会った相棒の正体はなんと「アミクス」でした

物語冒頭、エチカは”実力に見合った補助官”とようやく出会うことになります。
名前はハロルド。

外見は柔和な色男にしか見えないハロルドですが、じつは人間ではありません。

『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』というタイトルからも分かるとおり、エチカの新たな相棒(補助官)は機械仕掛けの、いわゆるアンドロイドでした。

『ユア・フォルマ』の世界ではアンドロイドを「アミクス」と呼称しています。

もともと人付き合いを苦手としているエチカですが、どうやら特に「アミクス」は好きでないようです。

人間を尊敬し、人間の命令を素直に聞き、人間を絶対に攻撃しない──アミクスは皆、そうした〈敬愛規律〉を信念としてプログラムされている。
正直なところ、エチカはこの機械があまり好きではない。
いっそ、嫌いだった。

—『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒 (電撃文庫)』菊石 まれほ

  • 嫌いなアミクスを相棒にしたエチカはどのような関係を築いていくのか?
  • そもそもなぜエチカはアミクスを毛嫌いするのか?
  • ハロルドはどこか他のアミクスと違うようですが……?

アミクス嫌いのエチカと、人間くさいアミクスのハロルド。
この凸凹バディは、はたして上手くやっていくことができるのでしょうか?

『ユア・フォルマ』ネタバレ無しあらすじ⑤:
エチカとハロルドは、とある事件に挑んでいく……

急遽バディを組むことになったエチカとハロルドは、とある事件を捜査することになります。

「それで被害者は、病室の積雪・・・・・は何センチだと言ってるんです?」

—『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒 (電撃文庫)』菊石 まれほ

そんな印象的な問いから物語は始まります。
”病室の積雪” とは妙な言い回しですが……。

なんでも「吹雪の幻覚を見せる自己増殖ウイルス」が発見されたのだとか。
その被害者には病室に雪が積もっているように見えている模様です。

エチカとハロルドは、この自己増殖ウイルスの正体、出所を捜査していくことになります。

ネタバレ無しの『ユア・フォルマ』感想

自己増殖ウイルスの謎をエチカとハロルドが迫っていく過程がまず一つ、『ユア・フォルマ』の魅力です。
しかし、もちろんそれだけではありません。

僕が特に面白いと感じたのは以下の3点です。

  1. 「ユアフォルマ」というデバイスを主軸にしたリアリティのあるSF世界。
    「脳にデバイスを埋め込まれた人々の世界」を見事に描き上げています。
    それによって「機憶(記憶)」を探る役職が生まれ、事件捜査に使われているという点も面白い。
    さらに、「機憶を探る天才少女&アミクス(アンドロイド)のバディもの」という構図をこれでもかと巧く活かしています!
  2. エチカとハロルドの軽快なやり取りと、そんな二人の関係が深まっていく様子。
    エチカは人間で、ハロルドは機械。
    ですが、性格は交錯しています。エチカはどこか冷めて淡々としているのに対し、ハロルドはどうにも人間くさい思考や発言、行動をします。
    そんな二人の軽快な会話は見ているだけで口元が緩みます。エチカは当初、ハロルドを毛嫌いしている……はずですが、実際のやり取りは仲良しにも見えるんですよね。
    そうやって交流しながら、お互いの関係を探っていく変遷にも注目です!
  3. 巻末に乗っている参考文献を元にした心理学や科学の知識が巧みに組み込まれていて、知的好奇心も満たされること。
    小説を書くためにどれだけ下調べをするかは作家それぞれですが、作者の菊石まれほ先生は丁寧に下調べをして『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』を書かれたようです。巻末には参考文献が載せられており、人工知能や心理学、インターポールの歴史、さらには遊牧民の暮らしに関する書籍まで載っています。
    僕は『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』を読んでいて、人間観察の描写がえらく科学に則っているなと思っていたのですが、『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』が参考文献にあるのを見て納得しました。
    そんな感じで、確かな裏付けのある知識を楽しめるのもこの作品の魅力と言えそうです。

ちなみに、参考文献にある『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』は僕も読んだことがありますが、人間のしぐさや行動から心理を読み取る術を紹介していてとても興味深かったです。
『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』ではハロルドがその知識を披露していますが、さらに踏み込んで知りたいと感じた人は、参考文献のこちらも読んでみてはいかがでしょうか?

 

まさに見どころ多数の『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』。
さすがは電撃大賞の大賞受賞作ですね……!

適度に読みやすく、読者をあまり選ばない作品なので、未読の方はぜひお手に取ってみてください!

小説書き視点『ユア・フォルマ』のここを見習いたい……!(ネタバレ有りです)

※画像はイメージです

ここからは『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』から学ぶべきと僕が感じた点をネタバレ有りで書いていきます。

ずばりこの作品は「”起承転結” の基本に忠実。その上で”面白さを強化” した作品」だと感じました。
なのでその辺りを分析していこうと思います。

さて。以下は『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』の目次(Kindle版のもの)です。
右側の括弧には、その章が全体(巻末含めて全288ページで計算)の何%くらいで始まっているかを記しました。

P10.序章(3%)
P18.第一章(6%)
P80.第二章(28%)
P148.第三章(51%)
P204.第四章(70%)
P264.終章(92%)

ご覧いただけるように、「4つの章を大体ですが4分割」しています。
あまりに綺麗な「起承転結」のプロットを組んでいるように見えますね。

大雑把にですが、「事件の進展」を起承転結に当てはめると以下の感じです。

起)自己増殖ウイルスの事件が起きている。
承)事件捜査を行い、順調に解決に向かっているように見える。
転)解決するに見えた事件の容疑者に、突如主人公が挙がる。
結)主人公バディが逆境に打ち勝ち、真犯人に勝利する。

この流れを主軸に据え、さらに以下の要素を最適と思われる位置と頻度で加えている印象です。

  • 「エチカの過去」を徐々に明かす。それがエチカのトラウマ克服だけでなく、真犯人に繋がる伏線にもなっている。
  • エチカだけでなく、ハロルドの過去も第三章で一気に明らかにされていて、これがエチカとの関係構築につながる。二人とも過去にトラウマを抱えていて、それが二人を結びつける手助けにもなる。

以上を踏まえて、4つの章の役割を僕なり紐解いてみます。(あくまで僕個人の考えですが……)

  1. 世界観、主要キャラとその立場や思想を開示する。
  2. 何をする物語かを示す。
    「エチカとハロルドが、自己増殖ウイルス事件の捜査をする」こと。
  3. エチカとハロルドの出会った当初の関係性を描いておく。
    エチカはアミクス嫌いだが、ハロルドを嫌い切れていないように見える。
    対してハロルドは人間くさく、エチカに気さくに接する。
  4. 章の最後で”問題点”を明確にする。
    「エチカとハロルド」の価値観の違い。感情的よりは理論的な対立に見える。
    さらに、第一章の最後の文章は「こんな機械に、心に入り込まれたくない」。エチカがアンドロイド(ハロルド)へ対して抱える負の感情を明言している。
  1. 自己増殖ウイルスの捜査を進展させる。
  2. 第二章の最後でエチカとハロルドが仲違いする。
    第一章最後での仲違いは互いの「価値観」だったのに対し、ここでの仲違いは「より深層心理(過去のトラウマ含む)に根ざした感情的な行き違い」を描いている。
  3. 事件解決の糸口が第二章の最後で示される。
  4. (第二章の冒頭から第四章のクライマックスにかけて、「エチカの過去」を徐々に明かしていく)
  1. 犯人を捕らえるシーンを描く。
    読者には「事件解決か?」と思わせるが、まだ事件は終わっていない。
  2. ハロルドが負傷して倒れ、心配するエチカを描く。
    アミクスを嫌っているはずのエチカが態度を軟化させている。
  3. ハロルドの過去を明かす。
    エチカとの関係をさらに深める。
  4. 事件は解決に向かうと見えたが、突如一転する。
    第三章の最後で「エチカが犯人として疑われる」。
  1. 第二章以降、徐々に描いてきたエチカの過去を完全に明かす。それによって、エチカが抱えていた問題(トラウマ)が読者に知らされる。
    エチカは”もういない姉” にずっと執着している。姉の亡霊から離れて、真に自立する必要がある。
  2. 明かされた「エチカの問題」が解決するようハロルドが促す。エチカは自らの意志でトラウマを克服する。
    ハロルドはエチカを想ってトラウマからの脱却を図り、同時にエチカはハロルドのトラウマを知って共感を抱いている。これによって二人の絆が真に築かれる。
  3. 真にバディとなったエチカとハロルドは真犯人と対峙してクライマックス。
    トラウマを克服したエチカと、ハロルドのバディ。その活躍を描きつつ、伏線も回収してカタルシスを生む。

「事件解決のストーリー」を起承転結で組み、さらにエチカとハロルドの関係性を描くことで作品としての深みと凄みを出している感じでしょうか。

というわけで、小説を書く人が勉強も兼ねて『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』を読む場合、以下の2点に着目すると良さげです。

  1. 自己増殖ウイルス事件の捜査から解決に至るまでの起承転結。
  2. その起承転結に、「エチカの過去(+ハロルドの過去)」がどう作用しているか。

小説書き初心者の人はもちろん、プロット作りの知識はそれなりにあっても、なかなか実践に落とし込めないという人も、大いに学べるのではないでしょうか?

おわりに:『ユア・フォルマ』盤石感のあるスゴい小説です!!

というわけで、今回は『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』のご紹介でした。

基本に忠実に書く。その上で、深みと凄みをこれでもかと加えた作品だと僕は感じました。
言葉選びや文体も親しみやすく、そういう意味でも幅広い層に好まれる作品と言えそうです。

僕もそうですが、独自性を出そうとして基本をおろそかにしてしまうのは作家あるあるだと思います。
『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』には基本が大事だと教えられた気がします。

最近は自作を書くことばかり考えていた僕ですが、一度初心に返って「起承転結」や「三幕構成」など基本的なことも再度勉強してみようと思います!

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