『天使がくれた時間』感想(吉月 生/メディアワークス文庫)

”あなたは奇跡を信じますか?”

かつて大病を患い、医師になる夢を諦めた新(あらた)。
そして、”奇跡” を起こす不思議な女の子・エラ。

病気の再発を恐れていた新の前に現れたエラは、本物の天使でした。
ふたりの出会いによって、止まっていた針は再び動きだします。

とにかく”奇跡”  に溢れた物語。
ご都合主義上等。この物語はコレでいい。

読み終えたとき、きっとあなたはもう一度読み返したくなるはずです。

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『天使がくれた時間』あらすじ

主人公である新の夢は医者になることでした。

新の母親は、新を授かったとき病にかかり、新を産んですぐに亡くなってしまいました。
そして母を奪った病を治せるような医者になると夢見ていた新自身も、奇しくも同じ病にかかってしまいます。

その後ひとまずは穏やかな日常生活を送れるようになった新でしたが、病気が再発すれば今度こそ命はありません。
いつ消えるかも知れない命の火。そんな不安定な状態で夢を追うことに意味を感じられなくなってしまった新は、夢だった医者を諦めてしまったのでした。

僕が生まれてきたことに何か意味はあるのだろうか。
朝目覚めると、いつも同じことを考える。
いつからこんな風に考えるようになったのだろう。

(6ページより)

静養を理由に逃げるようにして祖父母の住む田舎町に移り住んだ新は、悶々とした日々を生きています。

そんな新の二十回目の誕生日。
独り夕暮れの海を眺めていた新は、その絵に描いたような景色を”天使が降ってきそうな空”と感じました。

すると、ふいに声が聞こえました。

海の空が一番、綺麗な時間だ。まるで天使でも降ってきそうな空だった。
「天使が空から降ってきそう」
振り返ると、砂浜に一人の女の子が立っていた。

(12ページより)

新とエラ。”出会い” の瞬間です。

一目見てエラに惹かれた新は、それから1ヶ月の時間を彼女と共に過ごすことになります。

そんななかで、エラの起こす”奇跡” を目の当たりにした新は彼女が本物の天使であることを知るのですが、実は彼女の起こす”奇跡” には秘密があって……。

とにかく温かく、そして切なく優しい物語です。
最後に待ち構えている驚きの真実にも注目していただきたい一冊。それを知れば、あなたはきっともう一度このお話を読み返したくなるはずです。

感想・考察【作家志望者の視点で】

以降ネタバレを含む可能性がありますので、未読の方はご注意下さい!

”奇跡” を許容せざるを得ない物語

本作は数々の”奇跡” に溢れた作品です。

正直、ご都合主義と言われてしまえば否定することはできません。

いかにフィクション作品であれど、物語にある程度のリアリティが求められるのも事実です。
このリアリティというのは、設定や世界観がどうこうという話ではなくて、いかに読者に納得し、感情移入してもらえるかということに尽きると思います。(そうでないとファンタジーやSFはすべてダメということになってしまいますしね)

読者に「こんなの有り得ないだろ」と思われてしまったり、心情的な部分で俯瞰されてしまったりすれば、その瞬間にその物語りは力を失います。
そうさせないだけのリアリティ=説得力は、やはり必要なのでしょう。

今回の『天使がくれた時間』はどうでしょう?

白状すると、序盤は私も「ご都合主義だなぁ」と思って読んでいました。
しかし読み進めるにつれて、「いや、この物語はこれでいいんだ」と思い直しました。その後はとにかくページをめくる手が止まりませんでした。

こと『天使がくれた時間』においてはご都合主義上等、です。
だってこれは”奇跡” の物語なんです。起こるべくして奇跡が起こる優しい物語なんです。

奇跡を”説得力” として良いかは意見が分かれるところでしょうけど、少なくとも私はこの物語の”奇跡” を心底楽しむことができました。

物語の構成

本作は主人公・新の生まれや、病気を患った子供時代などの描写(説明)から始まります。

その後、エラと出会った20歳の頃の物語の主軸となる時間に飛ぶわけですが、実はこの20歳の頃と併せて、30歳の新も語られることになります。

形としては30歳の新が、20歳の頃、エラと過ごした時間を振り返っているような感じでしょうか。

こういう書き方、私は試したことがないのですが、すごく難しいと思うんですよね。
読者の感情の機微や、そのために与える情報の量などをちゃんと計算しないと物語として破綻してしまうと思います。

しかも、時間や場面を飛ばすということは、その都度、読者(の感情的な部分)が着いてきてくれないといけません。
本作は読んでいてもストレスを感じることがなく、これが上手くできるのがプロなんだな、と読んでいて思いました。

ラストについては詳しく語りませんが、私は驚かされました。というより、悔しかったですね。
物語の展開や設定をちゃんと読み取っていれば、気付くことのできそうな真相がラストで明かされることになります。
このさじ加減が絶妙だと思いました。

私がただ浅はかなだけだったのか、あるいは大多数の読者を驚かせることのできるストーリーなのかは気になるところ。
洞察力の鋭い方が読むとわかるものものなんですかね?

もし、この作品を読んだ方がいらっしゃれば感想などコメントしていただけると嬉しいです。(コメント欄はこのページの下の方にございますので遠慮なく書き込んでください!)
これから読んでみようという方は、ぜひ細部まで読み込みながら楽しんでいただければと思います。

笑顔の描写

本作で”奇跡” と並んで印象的だったのが”笑顔の描写” です。

人は奇跡によって笑顔になる、ということなのでしょう。 本作では笑顔の表現方法が多岐に渡ります。
おそらく著者の吉月先生もかなりこだわったのではないかと思います。(素で書いてらっしゃるなら、それはそれで羨ましい感性なのですが……)

例を挙げると、

  • 嬉しそうに顔を綻ばせた彼女
  • 彼女は僕を見つめてふふふ、と声を出して笑った。思ったより幼い笑い方に親しみやすさを感じて、話しかけてみる。
  • 屈託のない笑顔でくしゃりと微笑んだ
  • 少し照れくさそうに、くしゃりと顔を歪めて言った。

といった感じです。
まだまだあるのですが、それは物語を楽しみながら探していただけたらと思います。

最後に例に挙げた”くしゃりと顔を歪めて言った” に関しては、明確に笑ったと表現されているわけではありませんが、書かれたシーンや、再三に渡って”くしゃり” という表現が笑顔に使われていたことから、「感傷的な想いを込めて笑ったんだろうな」と私は思いました。
こんなふうに余韻を持たせる描写もいいですよね。

ちなみにこの”くしゃり” という表現、カタカナで”クシャリ” と書かれた場面がありまして、明らかに意図のある使い方をされています。
読んでいてとても感心させられました。これから読まれる方は、ぜひ探してみてください。

おわりに

『天使がくれた時間』。序盤はご都合主義な感じが拭えなかったのですが、読み進めるにつれて物語に引き込まれていきました。

切なく美しい。そしてなにより優しい物語。
おすすめです。ぜひ一度読んでみて下さい!

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