小説の”書き出し”を考える。読者を物語に引き込もう!

小説において書き出しが重要なのは間違いありません。
書き出しの出来次第で、読者がどれだけ物語に入り込んでくれるかが決まると言っても過言ではないでしょう。

しかし、これが極めて難しいんですよね。
書き手からしたら、プロットをはじめ様々な設定を考え抜き、いざ書こうと思ったとき、伝えたいことは溢れんばかりにあるのに、それがどうやったら上手く読者に伝わるのか、とりわけ書き出しは何処から何を語れば良いのかと思い悩むものでしょう。

私が書く小説は戦闘シーンから始まるものが多いのですが、これは登場人物の置かれている現状や心理状態を、直接語るのではなく、戦闘を介すことで読者に感じてもらいたいからです。
しかし、これが上手く作用しているとも思えません。

そこで今回は小説の書き出しについて学んでいこうと思います。

参考文献:デイヴィット・ロッジ[著]、柴田元幸・齋藤兆史[訳]『小説の技巧』白水社

書き出しの重要性

小説の冒頭は、われわれが住む現実世界と、小説家の想像力によって生み出された世界とを分ける敷居に他ならない。したがって、まさに作家がわれわれを中に「引きずり込む」場所であると言っていい。

(15ページより)

私も漠然とは理解していましたが、こうして明文化されるとこれに尽きると思わされます。
「引きずり込む」という表現が秀逸だと思います。私のイメージはいかに読者を「惹きつける」かでした。
しかし小説の読者がまず望むのは、その世界に入り込むことですから、書き出しが現実と小説世界との敷居を取り去る役割を持つという考え方は正しいと感じました。

私は、私の書くすべての文が、読んだ人にどういうふうに作用するかを考え抜いた小説を書きたいです。
ですから、今後書き出しを考える際には、いかに読者を私の創った世界に「引きずり込む」かに重点を置いていきたいと思います。

さて、本書では書き出しの良い作品の例を2つ挙げております。
ジェイン・オースティンの『エマ』(1816)と、フォード・マドックス・フォードの『善良な兵士』(1915)の2作です。
この2作の原文の書き出しを載せ、そこに具体的な考察を述べているのですが、この記事ですべてを取り上げることはできませんので、今回は『エマ』の書き出しについて私なりにまとめ、感じたことを述べさせていただきます。

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『エマ』の書き出し

ジェイン・オースティンの書き出しは伝統的な手法にのっとっている。明快で、客観的で、整然としていながら、そのきれいなビロードの手袋のような文体の中に皮肉の針が隠されている。出だしの一文からして、すでにヒロインの挫折を実に巧妙に暗示している。

(16ページより)

ここで肝となるのは挫折の暗示でしょう。

『エマ』の冒頭を簡潔にまとめると次のようになります。

  1. エマがいかに恵まれた人物か(容姿、頭脳、家柄など)。21年近く悩みや失望と無縁の生活を送ってきた。
  2. 家族構成(子煩悩な父親、姉がひとり、母親は幼い頃に亡くしている)
  3. 姉が結婚したことで、エマが家を継いでいる
  4. 母親代わりとなった家庭教師であるミス・テイラーの存在。”むしろ友達として” ”姉妹以上の関係” ”深い愛で結ばれた親友”
  5. エマの欠点の指摘。思い通りの生き方ができる特権。自分を過大評価する性癖。

そして次のように締めくくられます。

悲しい出来事が起こった——いや、決して嘆かわしいことではなかったのだが、それは彼女の胸に淡い悲しみを植えつけた——ミス・テイラーが結婚したのである。  ——ジェイン・オースティン『エマ』(一八一六)

(14ページより)

いかがでしょう。原文を読んでいただけると本当は良いのですが、要約しただけでも続きを読みたくなる書き出しではないでしょうか?

エマの過去を自然と語ることで、『エマ』の世界への扉を開き、一見非の打ち所のないエマの欠点を暗示した上で、「悲しい事件が起こった」に繋げています。

本書では”エマの欠点の暗示”について述べられているのですが、『エマ』では単語の選出を巧みに行うことでそれを上手く表現しているようです。

エマの描写に使用された単語は以下のようになります。

  • handsome「端正な顔立ちをした」(prettyやbeautifulのような女性向けの褒め言葉をあえて使用しない。男性的な「権力への意志」を暗示している)
  • clever「利口な」(知性を現すには曖昧で、「知に走りすぎる」のような意味にも取れる)
  • rich「富を有する」(聖書や格言との連想から、倫理的な堕落を暗示する)

褒めているようであって、見方によってはマイナスに取れるような単語を使用しています。これは日本語であっても使えるテクニックではないでしょうか?

このように一見完璧に見えるエマに対し、読者に「ん?」と違和感を思わせるような暗示を取り入れているのです。
そして原文では、読者の抱いた違和感が確信に変わる一文が登場します。

”ミス・テイラーの意見を尊重しながらも、もっぱら自分の判断に従い”

という一文です。これによってエマの欠点は露わになります。
次いでエマの良き理解者であり、同時に良識的な忠告者でもあった家庭教師ミス・テイラーが結婚することでエマのもとを去ることが述べられ、読者はエマの未来に暗雲が立ちこめたことを悟ることになります。

おわりに

というわけで小説の書き出しについて学んできました。

一番のポイントは読者を物語に引きずり込むことを目的にして考えることですね。
『エマ』の例から、私的に学んだ書き出しの重要点は以下の3点です。

  • 主人公の顔を見せる(性格や過去、現状など)
  • それを暗示するにとどめることで、読者の興味を煽る
  • はじまる物語を示唆する(『エマ』では、今後エマが悲惨な未来へ進んでいくことを示唆している)

もちろんこれは1例に過ぎませんから、今後小説を読む際には書き出しの意図についても意識していきたいと思いました。

それでは今回はここまでにしておこうと思います。読んで下さったみなさま、ありがとうございました!

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