『世界の果てのランダム・ウォーカー』感想(電撃文庫/西 条陽)

西 条陽2018『世界の果てのランダム・ウォーカー』電撃文庫

西先生の『世界の果てのランダム・ウォーカー』を読んだので感想をば。

本作は第24回電撃小説大賞の金賞受賞作品となっております。

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概要と所感

舞台となるのは様々な国や未踏の遺跡が広がる世界。

主人公となるヨキとシュカは天空国家セントラルの調査官です。天空国家セントラルは空の上に浮かぶ都市で、高い技術力をもっており、地上に広がる世界の調査や監視を行っています。それを実行するのが調査官の仕事となります。

セントラルの技術力や価値観は、私たちの生きる現代の世界に近しいもののようです。読者と近い価値観の主人公達が、文化や技術力の異なる国や遺跡を訪れ、そこで起こる現象や事件を観察するといった形式をとることで、自分も旅しているような高揚を得られます

私の感想としては、とても楽しみながら、そして少し悔しい思いをしながら読ませて頂きました。悔しいと表現したのは本作が、私が目指す小説のひとつの理想形に極めて近いと感じたからです。

そんな私が本作から感じたことをいくつか述べていこうと思います。

名作『キノの旅』に通ずること

本作の帯紙のコメントは、言わずと知れた名作『キノの旅』の著者であられる時雨沢恵一先生が務めております。

一話のラストでまずやられました。ああ、そう来るかと。(帯紙より時雨沢先生のコメント)

これは時雨沢先生が第24回電撃小説大賞の選考委員であったのはもちろんですが、本作が『キノの旅』に通ずるものがあり、時雨沢先生のコメントを見て買ってみようと思った読者も楽しめるという理由もあったのではと私は邪推しました。

私が本作『世界の果てのランダム・ウォーカー』と『キノの旅』を比較して似ていると思ったのは以下の2点です。

・文化や技術、民の価値観が異なる国を主人公が訪れるという物語のスタイル

・心情描写を極力排除し、主人公を介した読者の視点に心情表現を委ねる文体

まず主人公がいろいろな国を訪れるというスタイルは、同じ作品のなかで様々な世界や価値観を表現できる上、観測者が同じであるためそれらを比較できるという利点があるのだと思います。

そしてそんな様々な世界を小説で表現するにあたり、心情ではなく行動や情景に重きを置くことで、読者が主人公を通じて作中の人や景色や出来事と出会い、読者自身が心情を発することができるのだと感じました。

本作は短い文で、良い意味で淡々と物語りが紡がれていきます。「〜はいう」「〜がいう」(言う)といった簡潔な表現が多数見られるのですが、これは一歩間違えると文全体が淡泊になってしまいそうなものです。しかし、本作ではこの簡潔さこそ絶妙に世界観を表現しているように思われました。

以上のように『キノの旅』ばりの名作の匂いがする本作ですが、もちろん模造品というわけではなく二作品間には異なる点もあります。

私が最も感じたのは主人公の心情描写のさじ加減です。先ほど、どちらの作品も心情描写を控えめにしていると述べましたが、比較的本作の方が主人公の心情、つまり感情を描く割合が大きいと感じました。

本作は文章による心情描写こそ少ないものの、主人公の二人が無感情かというとそうではありません。(この点において『キノの旅』の主人公キノは意図的に無感情を表現したキャラのように思われます。)

本作の主人公であるヨキとシュカは極めて人間的で、とくにヨキは物語を通して徐々に心情が露わになっていきます。主人公が二人というのも、モノローグではなくダイアローグを通して、それぞれのキャラを深めることに成功していると感じました。

(『キノの旅』のキノも相棒であるバイクのエルメスと旅しているわけですが、こちらはそれぞれ独立したキャラ同士の会話というよりは、自問自答?に近いイメージがあります。……この辺りは難しくて上手く説明できなのですが、みなさまはどうお考えでしょうか?)

つまり、『キノの旅』はキャラを通した世界のとらえ方を極限まで読者に委ねているのに対し、本作『世界の果てのランダム・ウォーカー』は読者に直接世界を垣間見せつつも、同時に物語としての主人公たちの在り方も描いているのではと私は思いました。

西先生の博識ぶりに圧巻致しました

本作は様々な文化の国に、主人公達の常識をぶつけるという形で物語られていくわけですが、この主人公達の常識というのは、私たちの住む現代世界に近いもののようです。つまりは科学の発展した世界です。

そのため本作には現代の様々な科学的な知識が登場します。自然現象に医学、IT、哲学に至るまで様々な分野のオンパレードです。これらをファンタジー的要素に絡ませていくのですから面白くないはずがありません。

物語として楽しみつつ、知識欲も満たせるといった贅沢な小説といえると思います。

物語として楽しめるように様々な知識を盛り込むという手法は私が目指す小説のひとつの形ですので、本作はそれを高い水準で成していると思いました。西先生、敬服いたします。

感想

私が書く小説は、どうにも心情描写に重きを置いてしまいます。これは私が”人間”を描きたいと思っているからですので、悪いこととは思いませんが、やはり物語としての楽しみを求めている読者様にも配慮した書き方をしなければと今回改めて感じました。

感情のすべてを描写してしまうのではなく、行動や情景を巧みに描くことで読者の心情を誘導するといった手法も学んでいかねばと思った次第です。

最後に、私が本作で最も印象に残った部分を末尾に載せておきたいと思います。ネタバレになりそうなワードが出てきますので、未読の方は是非とも先に本作を読んで頂けたらと思います。それではまた。

 

 

 

 

 

 

 

今までの価値観ではとらえられないものと出会ったとき、今までの言葉ではあらわせない感覚におちいる。それがよいことなのか悪いことなのかはわからない。

ただ、そこには深い感動がともなう。そして感性が新しい地平へと進む。

それこそがヨキのずっと願っていたもの、追い求めていたもの。

未知との遭遇。

偉大なる発見。

エウレカ。

ユリイカ。

「世界はまだ広くて、こんな龍みたいなやつらがいて、僕も人類ももっと前に進むことができる。そんな嬉しいこと、ありませんよ」

「あほだねぇ。私の知る限り、ヨキは底抜けのあほだよ」

「ありがとうございます」

「ま、褒めてるんだけどさ」

(162ページより)

要所要所に過不足無く描かれるヨキの価値観や心情。その想いはひどく鮮烈に印象付けられます。

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