【評価シートオール3】オーバーラップ文庫大賞一次落選作を公開します

エンナ自身も反省はしているのでなんとも居心地の悪い思いをしている。ただ、以前アンガスに言われたとおり、次に同じ状況になったときに行動を改める自信もないため、曖昧に笑んでいることしかできなかった。

「そんなこと言って。隊長が一番心配してたくせに……」

フィスがぽつりとこぼすが、聞こえなかったのかあるいは照れ隠しなのか、ウォルスは何も応えなかった。

「でもエンナがひとりで戦場に出るのを許容されている現状にも問題があると思いますけどね俺は」

落ち着き払った口調のリオウの言には、エンナをはやくどこかの隊に入れるべきという考えが見て取れた。

「まあな……」

思案するように手を顎に当てながらウォルスがエンナを一瞥する。

「そうだよ。やっぱりうちの隊に入りなよ、エンナ」

フィスは名案とばかりに目を輝かせている。

「お気持ちは嬉しいですが、国内随一と名高い先生の隊に入るには、俺はまだまだ未熟ですよ」

「よく言うよー。私たちよりよっぽど才能あるよエンナは」

フィスは呆れたように言うが、エンナは本心からウォルスの隊に入る資格は自分にはないと思っている。

実力的には問題ないというのが正直なところだが、チームに必要なのは個人の能力だけではない。規律だとか仲間との連携だとか、そういうものが自身に圧倒的に足りていないことを自覚していた。

ウォルスは以前、「そんなものは実戦で学べばいいから俺の隊には入れ」と言ってくれたが、エンナはそれを断っている。尊敬する師匠に迷惑を掛けたくないと思っていた。ウォルスもエンナの複雑な心境を汲んでくれたのか、それ以来そのことを口にしなかった。

フィオナやウォルス、フィスにリオウも、皆がエンナを心配してくれている。それに応えることができない自分にエンナは嫌気が差していた。

いつの間にか顔を伏せていた。優しい人たちの顔を見るのが怖くなっていた。

そのときだ。

「ならエンナ、おまえのチームをつくれよ」

染み入るように耳に届いた声に、思わず顔を上げた。果たして、柔らかに笑むアンガスと目が合った。

「お前はお前の在りたいように在るべきだ。そのために、お前のチームをつくるんだ」

呈するでも押しつけるでもなく、ただ当然の道理を示すような口調だった。

「なんて顔してんだよ」

呆気にとられたエンナの頬をアンガスがつねり上げる。

「……いてぇよ」

「そうか、そいつは重畳だ」

アンガスは満足げに頷いた。

「おい、イーファ」

そのまま振り向くや、アイオンと戯れていたイーファを呼んだ。

「なんですか……って、エンナ?」

小走りで駆け寄ってきたイーファは何故かそのままアンガスの脇を抜けると、エンナの前にやって来る。アンガスは寂しげながらも温かな眼差しでそれを見送った。

イーファはそのままゆっくりと手を伸ばして、エンナの頬に触れた。

「どうした?」

ひんやりとしたその感触と、気遣わしげに揺れる空色の瞳にエンナは戸惑う。

「大丈夫ですか?」

「なにがだ?」

「いえ、その……泣きそうな顔をしているから」

ためらうように放たれた言葉に、エンナは目を瞠る。そんな顔をしている自覚はなかった。イーファの頭越しにアンガスを見た。

アンガスはやれやれというように首を振る。

途端に恥ずかしさが込み上げた。

「大丈夫だ。少し感傷的になっただけだ」

「ならいいですけど……」

なおも心配げに瞳を揺らすイーファの態度にいっそう顔に熱が集まる。知らずのうちに頬に添えられたイーファの手に、自らの手を重ねていた。

「……あんたは、隣にいてくれるか?」

言葉にしてから、はっとなってイーファを見た。意図せず零れた胸中であり、そんなことを口にした自分自身に驚いていた。そもそも隣にいたいと言ってくれたイーファを昨夜拒んだのは自分だったはずだ。

イーファの反応は見物だった。

つぶらな瞳をこれでもかと見開いて驚いていた。そうしてしばらく呆けていたかと思うと、次の瞬間には力の抜けた温かな笑みを浮かべている。

「もちろんです」

明快な応えが耳元に届き、そのたった一言に含まれた意志に心震えた。状況も把握できないまま、おそらく直感だけで放たれた応えに違いなかった。そのことが一層嬉しかった。

今度こそ本当に泣きそうになったが、込み上げる涙を必死にこらえた。

「それで、なんの話をしているのですか?」

愛らしく小首を傾げるイーファの態度に、泣きそうになりながらも心底可笑しい気持ちにさせられた。

「わけもわからず返事したのかよ」

「だって、あんな言い方されたら、どう転んだって返事は一つですもん」

「さっきのは言葉の綾ってやつだ」

「嘘ですね。私にだってそれくらいはわかります」

自信満々に豪語するイーファにエンナは苦笑で返し、イーファもまた笑った。

「はいはい。いちゃつくのは二人っきりのときにしな」

アンガスが見かねたように割って入り、イーファは思い出したようにエンナの頬に添えていた手を引き、顔を真っ赤にして弁解を始めようとする。しかしアンガスがそれを遮った。

「イーファ。エンナがチームをつくるよ。お前が一人目のメンバーだ」

「エンナがチームを……?」

一転して真面目な調子のアンガスに、イーファも感化されて姿勢を正している。人を食ったような態度を常としているくせに、大事なときにこそまっすぐに言葉を伝えられるのがこの男の不思議なところだとエンナは思った。

「おい、勝手に話を進めるなよ」

戸惑いを隠せず焦るエンナ。その顔をのぞき込むようにしてイーファが顔を近づける。イーファの瞳は期待に満ちた輝きに溢れていた。

「一緒に頑張りましょうね!」

いかにも嬉しげなイーファの様子に、エンナは出かけた苦言を飲み込むしかなかった。してやったりとばかりの表情を浮かべるアンガスがなんとも憎らしい。

「それはいい。エンナ、やってみろ」

ウォルスにまでそんなことを言われてしまっては逃げ場はなかった。

フィスとリオンも納得したようで、

「んー、私としては同じ隊になれなくて残念だけどなぁ」

「でもエンナのためには良いだろう」

他に誰かエンナのチームに相応しい奴はいないかと、当人を置き去りにして二人して歓談している。

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