【評価シートオール3】オーバーラップ文庫大賞一次落選作を公開します

「エンナー起きてください。朝ですよ」

重い瞼を持ち上げると眼前にイーファの顔があった。ベッドの脇にしゃがみ込み、エンナの顔をのぞき込むようにしていた。

「おはよう、イーファ」

「はい。おはようです、エンナ」

いかにも嬉しげに顔を綻ばすイーファを、エンナはじとりと睨み付けた。

「どうしたんですか? 恐い夢でも見ました」

小首を傾げたイーファが華奢な手をすっと伸ばして、エンナの頬に触れる。

その掌の心地よさを必死に振り払って、エンナは一層厳しい眼差しをイーファに向けたが、当の本人はきょとんとするばかりである。

「イーファ」

「はい」

「何度も言うが、勝手に部屋に入ってくるな」

「えー、別にいいじゃないですか。エンナもいつでもわたしの部屋に来て貰って構いませんよ?」

不満の声を上げるイーファは、悪びれた様子もなく、今度はエンナの頭をなで始める。

(舐められてるなぁ)

心底叱られているのであれば、きちんと反省し、正すことのできる少女だ。今それをしないということは、エンナの心の内を敏感に読み取っているからに他ならない。エンナは今、呼応石を身につけていないから、単純に心を読まれているのだった。

それでも叱るところは叱らなければならない。それがイーファのためでもあって、エンナの沽券に通じるものだった。

「良くない。あんたな、無警戒にほいほい男の部屋に来るもんじゃないぞ。これからヒトとの繋がりの中で生きていこうってんだから、少しは常識を身につけろ」

「はいはい、わかりましたよ。エンナ以外の殿方には充分気をつけますよ」

「どうしてそうなる。俺は男としてみられていないってか……」

「なに言ってるんです。むしろ逆ですよ。わたし、エンナ以外の殿方には興味ありませんから」

そう言って、あろうことかイーファがベッドの中に潜り込んでくる。

「まだ眠いのなら、もう少し休みます? ご一緒しますよ?」

鼻の触れあうような距離で囁くイーファの行動は、きっと確信犯に違いない。

抱きつかれて、甘い香りと柔らかな感触で一気に目が覚めた。ほとんど無意識に抱きしめ返していた。悔しいがどうしようもなく幸せだった。

「エンナ、苦しいです」

くすくすとイーファが笑っている。

「起きるか……」

言いながらも身を起こす気にはまったくならない。またまどろみにつつまれようとしていた。

「みなさん、朝ご飯を用意して待ってますよ?」

「もう少しだけ眠る。イーファは先に行っててくれ」

そう言いながらも腕に力を込めていた。

「これでは動けません」

「あんたの力なら簡単に抜け出せるだろう」

「無理ですね。幸せすぎて、そんな気がこれぽっちも起きませんから」

そんな言葉といっしょに、額に唇の柔らかな感触が落ちてきた。

「もう少ししたらほんとうに起こしますからね? おやすみなさい」

心地よい声と温度に包まれながら、エンナは再度意識を手放したのだった。

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